シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「さて、お付きのメイドはいつ帰ってくるかな」


時計を見ると、門限まではまだかなりある。

仕方がない。女性を待つのは得意な方だ・・・。

パトリックは長丁場になりそうな状況に、一つ深い息を吐いた。



パトリックがため息をついている頃。

ここは城下の繁華街にある喫茶店。

オープンカフェ風の洒落た作りは最近できたもので、テーブルも椅子もまだ新しい。

広場の噴水が見える絶好の場所にあるここは、若いカップルや老夫婦、人待ち顔な男性もいれば楽しげに話している女性のグループなど、様々な人たちで賑わっている。

メイは友人とともに買い物を済ませた後、お茶を飲みながらここでお喋りを楽しんでいるところだ。

普段、城の中で限られた人としか接しないメイにとって、久々に会う友人たちの話はとても新鮮で驚くことばかり。

今城下で流行っていること、誰と誰が付き合っているとか別れたとか、他愛もない話だがとても楽しい。

友人の一人に最近彼氏ができた。

メイと同じ赤毛で、たれ目が特徴の可愛らしい娘だ。

さっきから蕩けそうな惚気話を聞かされている。

一通り自分の話が終わったのだろう、娘は思い出したように手を合わせる仕草をするとメイに瞳を向けた。

「ねぇ、メイは最近どうなの?例の、兵士の彼」

突然自分に話が向けられ、飲んでいたお茶がのどに引っ掛かり咳き込む。

友人たちの期待を込めた眼差しに戸惑いながらも口をとがらせる。

「私は相変わらずよ・・・。まだ、片思い中だわ」

メイは兵士団の団長を務めているジェフに恋している。

以前、困っていたところを助けてもらったことがあり、その優しさに触れて以来ずっと思い続けている。

ジェフとは意外に気が合うことも分かり、よく話をするが自分のことをどう思っているのか、まだ計りかねている。

告白したいけど、今の仲の良い関係を壊したくもない。

「私は暫くこのままでいいわ」

しきりに告白を勧めてくる友人たちに苦笑するメイ。


楽しい午後のひと時はあっという間に過ぎていく。

束の間の休息時間も終わりに近づく。

メイは時計をチラッと見ると、残念がる友人たちに別れを告げた。