シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「まったく・・・・。危なかったね。腕は大丈夫かい?」

エミリーは改めてパトリックに向き直ると丁寧にお礼を言った。

「ありがとうございました。わたし一人じゃどうなっていたか・・・」

パトリックのブルーの瞳を見つめていると、アランの顔が思い浮かぶ。


エミリーは、安全だと信じていた城の中にあんな男たちがいた驚きと

何故か浮かぶアランの顔に戸惑う気持ち。

それに恐怖から解放された安堵感。

いろんなものがごちゃ混ぜになってわけがわからなくなった


張り詰めていた糸がプッツリと切れたように、アメジストの瞳に自然に涙が溢れてくる。


「あなたはどうしてここに―――?」

見上げるエミリーの頬に一筋流れ落ちた。



「わたし・・・ごめんなさい・・あの・・・怖かった・・・・」


呟くようにそう言うと、エミリーは溢れる涙を隠すように顔を手で覆った。



「参ったな・・・・」



パトリックはどうしていいか分からなかった。

目の前で”怖かった”と涙を流す少女は余程怖かったのだろう、未だに震え怯えている。


いつものパトリックなら、抱きしめて安心させるのだが今回は何故かそれができない。


抱きしめたら消えてしまいそうな、そんな気がするのだ。



パトリックは自他共に認める遊び人だ。

女性の扱いには手慣れている。

涙も嫌というほど見てきたし、宥めるのも自信がある。

しかし目の前の少女にはそれができず、何故か戸惑っている自分がいる。



迷った末、片腕で震える肩を守るように優しく抱いた。