シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

アランがラステアに旅立ってから2日目の午後。

いつものようにランチを済ませたあと、メイド姿に着替えたエミリー。

長い髪を一つに束ねて、度の入っていないメガネをかける。

「よし、これで準備万端ね」

エミリーはワクワクとした気持ちを抑えきれず、部屋の中で一人ではしゃいでいる。

少し下を向くと、サイズの合わない大きなメガネがずれてくる。

エミリーは鬱陶しそうにメガネをかけなおす。

「もうメイったら、本当に心配性なんだから・・・」


随分前の夜のこと・・・・

雑談中、たまには一人で外に行きたいと言ったエミリー。

メイドの姿なら大丈夫だからというエミリーに対し、

メイはなんだか納得していない様子。

腕組みをして暫く考えたあと

「では、エミリー様。塔の外に出るのならメガネをしてください。

せめて、その瞳を隠して下さい」

言いながら、どこにあったのか大きなメガネを持った来た。


「そこまでしなくても・・・」

と言ったのだけど、メイは頑として譲らない。

根負けして、仕方なく言うとおりにメガネをかけることにしたのだが

このメガネ、エミリーの小さな顔には大きすぎる。


「今日は塔の外に出るのだもの。

言うこと聞いておかないと、また叱られちゃうわ」

メイのふくれっ面を思い出し、苦笑する。


身支度を整えると、扉をそうっと開ける。

部屋の前にある護衛の待機部屋に誰もいないのを確認すると、

廊下に出て、そうっと静かに扉を閉める。

もう何度もこうして部屋を抜け出しているが、今日は少し違う。

いつもは廊下を左に行くのだけれど、今日は逆。

廊下を暫く右に進むと、左に階段が見えてくる。

そこを降りて、左に行って最初の角を右に曲がれば使用人が使う裏口に着く。

この道は昨夜メイから教えてもらったものだ。

ここから塔の外に出ると、目指す薔薇園に近いのだ。