シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

翌朝、いつもの朝食の時間。

エミリーがいつものように食堂の扉を開けると、奥の席にいるはずのアランがいない。

いつもエミリーが来るのを待っていて、テーブルに着くと

「おはよう。よく眠れたか」と必ず聞いてくる。

その度に、微笑みながらこう答える

「おはようございます、アラン様。昨夜もよく眠れました」

毎朝確認するように交わされる会話は日常化していて

これがないと、エミリーの一日は始まらない。

自分より遅いなど、珍しいことがあるものだと思っていると

給仕がふんわりと湯気を立てているスープを運んできた。


「あの、今日はアラン様は?」

「本日は、すでに朝食を済まされております」

「ぇ・・・大変!わたし、遅刻したかしら」


眉を寄せるアランの顔が思い浮かび、あたふたと時計を見る。

壁に掛けられている森の木をモチーフにした時計の針は

まだ8時前を指している。

「いいえ、本日から5日間の予定でラステア王国を訪問されております」

「5日間・・・?」

アメジストの瞳から急に輝きが消え、寂しげな色を見せる。


昨日は何も言って無かったのに。

他国への訪問って、普通かなり前から決まっているものでしょ。

それなのに、黙って行ってしまうなんて・・・。

わたしは一時城に住まわせているだけの、異国の少女だから

言う必要はないということなの?

それだから、何も言わないで行ってしまったの?

毎日一緒に朝食を取って、最近はたくさん話をできるようになったのに。

それなのに・・・・。


暫く留守にするって、ひとこと言って欲しかった。


自分の考えていることが、寂しくて、とても哀しい・・・。


膝の上でギュッと固く握られる手。

その姿は涙を零しそうなのを堪えているように見える。

エミリーは無言で温かい湯気を出すスープを見つめていた。