シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

昨日までパトリックには例の賊の調査を依頼していた。

今日は久々の登城だ。

エミリーのことはまだ話していない。

そのうち、折を見て紹介しようとは思っている。


しかし、さっきは何故あんなにも苛立ってしまったのか。

今まで経験したことのない感情に戸惑う。

パトリックの言うメイドの特徴は、エミリーそのもの。

ふわふわの巻き毛にアメジストの瞳。

ブロンドの髪の者はいるが、アメジストの瞳を持つ者はこの城には一人しかいない。

あのとき、パトリックは楽しげに”うちの屋敷に欲しい”と言った。

これは、いつもの軽口だ。

いつものことなのに、何故か苛立ちを抑えることができなかった。

この感情はいったい何なのか。

アランは暫く答えのない解答を探していた。



それにしても・・・。

何故メイドなんだ?

”自由にしてて良い”とは言ったが、全く面白い娘だ。

パトリックの話を思い出し、堪らず口元が緩む。



コンコンッ・・・

「失礼いたします」

パトリックから”御機嫌が悪い”と聞かされていたため

様子を窺うような風情で執務室に入るウォルター。

アランの顔を見るなり、驚いたように一瞬固まった。

「アラン様・・・。あの・・・何か、あったのですか?」

「・・・・・?」

問いかけられたアランは一体何のことか分からない。

ウォルターを見つめる顔は、いつもの無表情なものに戻っている。

「いえ、そのような表情を拝見するのは初めてですので・・・」

「何のことだ・・・? 用件を早く申せ」

少し苛立ちの色を見せると、慌てて居住まいを正す。



「国王様がお呼びでございます」