シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

パトリックはやれやれと言った風情で執務室から出た。

・・・一体何だと言うのだ。

子供の頃からの付き合いだが、あんなアランを見るのは初めてだ。

そう言えば、雰囲気が少し変わったようにも思うな・・・。

暫く来ない間に、何かあったのか?



考えながら玄関に向かう途中、ふと見た廊下の向こう側。

ウォルターが部下の兵士と歩いているのが見える。

「ウォルター!」


手を振りながら呼びとめると、向こうから走り寄ってきて頭を下げる。

「パトリック様、今日はもうお帰りですか?」


「あぁ、なんだか急にご機嫌斜めになってしまわれてね。

退散するよ。メイドの話をしただけなんだが・・・・」


お手上げというように、オーバーに肩をすくめる仕草を見せる。


「メイド・・・ですか?」

ウォルターは訝しげな顔をパトリックに向ける。


「あぁ。綺麗な子を見つけてね。うちに欲しいと言ったんだ。

そしたら怒ってしまわれてね・・・」


ウォルターは暫く考え込み

「そうじゃなくて、別に要因があるのでは?

プレイボーイのあなたのことですから・・・」

そう言うと意味ありげに微笑む。


「そんなことはないさ。最近は、節制している」

胸に手を当てて十字を切る仕草をしておどける。


「そういえば、私がいない間に城で何か変わったことはなかったか?」


「そうですね。変わったことといえば、エミリー様・・・」

言いかけたウォルターはハッとすると、”しまった”と言うように顔をしかめる。

アランがパトリックにエミリーのことを話していないのなら、

ウォルターが報告するべきことではない。


案の定パトリックは訝しげな表情でウォルターを見つめている。

暫く無言の時が過ぎていく。

パトリックが何か言いたげな顔を向けた瞬間

ウォルターはすかさず向き直り、居住まいを正すと

「パトリック様。部下を待たせておりますので、これで失礼いたします」

丁寧に頭を下げ、逃げるように戻った。


「逃げたな。察しの良い奴だ。

エミリーか・・・。

これは面白いことになっているようだ・・・・」