シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

アランは執務室で書類を書いている。

例の賊の報告書だ。

あの日、賊が向かったと思われる国境付近の調査書が漸く揃った。

それを、国王に出すための報告書にまとめている。


コンコン・・・

「アラン、入るぞ」

返事も待たずに扉を開けたのは、先ほど書籍室にいたパトリックだ。

アランの傍にツカツカと歩み寄ると、椅子にドカッと座る。

「パトリック、本は見つかったか?」

「やはり無い。どこにも無い。国中を探したが無かった」


「あれは古い預言書だ。その本が無くなっているのなら、

あの賊の目的は預言書だったのか?」


あの日、国に現れた賊は城にも侵入した形跡はあるが、

不思議なことに財宝や城の者たちに何の被害もなかった。

あの預言書を盗んだのだとしたら、一体何のために・・・誰が・・・。



アランの肩肘をついて口元に手を置くこの仕草は

深い考え事をしている時のものだ。


パトリックはその姿を暫く見つめていたが、思い出したように急に笑った。

「そうそう、アラン。君のところには変わったメイドがいるな」

その言葉にアランが訝しげな瞳を向ける。


「変わったメイド?」


「あぁ、ふわふわのブロンドの髪の娘だ。

綺麗なアメジストのような瞳の。

高い場所にある本を取ろうとぴょんぴょん跳ねてるんだ。

取ってあげたら嬉しそうにしてたけど、

急にあたふたし始めて・・・私から逃げた」


話しながらも可笑しいのか笑いが止まらない。


「面白いし、綺麗な娘だったな。

うちのメイドにもあんな娘がいれば退屈しないのに。

そうだ、うちの屋敷に貰っても良いかい?」


「パトリック!」

バン!と机を叩きながらアランはパトリックを睨む。


「どうしたんだ?急に・・・」


「すまない。何でもない・・・まだ帰らなくていいのか?」


暗に ”帰れ” と言う意味を込めパトリックを見据える。

ブルーの瞳には従兄弟に向けるものではない光が宿っている。


急なアランの怒りに触れ、戸惑いの表情を浮かべるパトリック。

「また来るよ」と言い残すと足早に部屋を出た。