シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

背の高いその人影は・・・・。

ぴょんぴょん跳ねて本に手を伸ばしているメイドを、不思議そうに眺めている。


-もしや、あの本を取りたいのだろうか・・・。


メイドのいる位置から少し離れた場所に踏み台があるのが見える。

踏み台とメイドを交互に見ると、吹き出しそうになるのをなんとか堪える。


気付かれないようにそうっとゆっくり近づく。

脅かさないように気を使いながら背後から手を伸ばす。

ぴょんぴょん跳ねる頭を落ち着かせようと優しく抑え、にっこり笑う。

令嬢たちを夢中にさせる無敵のスマイルだ。


目的の古びた背表紙の本を取ると、塵を払いメイドに差し出した。


「取りたい本はこれかい?子猫ちゃん」



エミリーは突然抑えられた頭に、ぎょっとするもすっと伸びた手で本が取られ、

自分の目線に降りてくるのを不思議な気持ちで見つめていた。


--なんて紳士的な動作なんだろう・・・・。

ハッと我に返りお礼を言おうと振りかえると、そこには

銀色の髪にブルーの瞳の青年が微笑みながら立っていた。

どことなくアランに似ている。

その青年はエミリーに本を渡すとブルーの瞳を優しく向けた。


「君はここのメイドかい?私はパトリック。君は?」

「本を取ってくださり、ありがとうございます。

あの、わたしは・・・エ・・」


本を抱きかかえてお礼を言いながら、思い出す。

”人が来たら隠れて下さいね!”

ふくれっ面のメイが思い浮かぶ。


「大変!叱られちゃうわ。あの、失礼します。

あの・・・このことは内緒にしていてください」



急いで掃除道具を掻き集め、書籍室から逃げるように飛び出した。