シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

政務塔の廊下でエミリーがメイに謝っている。

傍目から見れば、新人の指導をしている先輩メイドに見える。


メイはエミリーのメイドらしくない容姿を見ると、

すれ違う兵士や使用人たちにばれるんじゃないかと気が気じゃない。

メイはポケットから布を取りだすとエミリーの髪を隠すようにすっぽりと被せ、結んだ。


「いくら、メイドの服を着ていてもエミリー様はエミリー様なんですからね!?」

メイは涙目だ。

エミリーはメイの言っている意味が分からず

「そんなことないわ。どこからどう見てもメイドでしょ?」

メイドの服を着た自分の身体を見ながら満足げに微笑む。

「もう・・・。さ、早く行きましょう・・・。もし誰かに見られたら・・・」



エミリーは普段自分の部屋のある塔から出ることはない。

ほとんどが部屋と食堂とレッスン部屋の往復。

たまに護衛と庭に出たくらいで、使用人やメイドの目に触れることは滅多にない。

もし見かけたとしても、遠目で窓から見るくらいなので顔は分からない。

そのため、エミリーの詳しい容姿を知る者は少ない。


だが、ここは政務塔だ。

護衛についていた兵士だっている。

それにウォルターやジェフもいる。

一番見られたくないアランだっている。

もし知ってる人に会ってしまったら・・・。

それに勘のいい人にはばれてしまうかもしれない。

メイはアランが眉を寄せる顔を思い浮かべ、身震いした。


「大丈夫よ。メイったら心配しすぎだわ」

のんびり微笑むエミリー。



「まったく自覚していないんだから・・・」

小声で呟くと、掃除を任されている書籍室へと急いだ。