シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「一度はそう思ったんです。パトリックさんの胸に飛び込もうって、その優しさに甘えられたら、この想いを忘れられるかもって、そう思ったんです。でも―――」

頬に流れる涙をそっと掌で拭うパトリック。

腕の中の身体は、固く閉ざされてるが、逃げる様子はない。



「こんなに私に身を任せてくれているのに、それでもダメなのか?」


「ごめんなさい・・・。わたしにとってパトリックさんはお兄さまのようで・・・とても安心できて・・・。ダメなの・・・キスされていても、こうしていても、あの方の顔が浮かんでしまうの。哀しげな顔が思い浮かんでしまうの・・・。どうしようもないの・・・・」


エミリーは消え入りそうな声で言うと、頬に流れる涙を隠すように手で覆った。

細い肩が小刻みに震え、小さな嗚咽が聞こえてきた。




「エミリー、一つ聞かせてくれ。アランにこの刻印をつけられた時、君は、抵抗したかい?」


息を飲み、頬を隠していた手が口に移動し、僅かに首が横に振れた。




「そうか、やはりな―――」


パトリックは上を見上げて深く息を吐き、そっと瞳を閉じた。


「手荒なまねをして、すまなかった――――だが、恋を失ったとは――」



―――バタン!!


「エミリー!」


煉瓦の小屋の中、暖炉の前でエミリーを抱き締めていたパトリックは、その突然割って入った声の人物を見て複雑な表情をした。

エミリーがシャワーを浴びている間、ずっと待っていた人物。

自分の暴走を止めてくれる、唯一の人物。


でも、今となっては来て欲しくなかった。

振られたとはいえ、もう少しこの腕の中に抱いておきたかった。



「アラン・・・・」



「パトリック!何をしておる!?誰に手をかけておる!?」



持っていた傘を投げるように置き、スタスタと歩いていく。

アランは、柔らかな身体を包み込んでいた腕をグイッと掴み、パトリックの体を突き飛ばすように離した。

グラっとゆらいだ体が、ソファの上に投げ出されるように座った。




「ぁ・・・アラン様・・・・」



「全く、君は・・・。何故その様な姿をしておる?無防備にも程がある」



着てた上着を脱いで、ふんわりと身体に掛けた。


白いバスローブ一枚の身体。涙に濡れた頬。

パトリックの前で、まさかこのような姿になっておろうとは・・・。

何もされておらぬと良いが。しかし、何故泣いておるのか。



「エミリー、迎えに参った。塔に戻るぞ?」



「アラン様・・・わたし・・・わたし、ごめんなさい――――」