シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「さぁ、ここに座って待っててくれ。今暖炉をつける」


ソファの上にエミリーをそっと下ろし、暖炉の前でカチッカチッと2回音をさせるとポッと火が灯った。

煉瓦で造られた小さな小屋の中には、大きな掃き出し窓の際にテーブルと椅子のセットが2つ。

暖炉の傍にはゆったりと座れるソファが一つ。

奥の壁には扉が三つあって、一つは『お手洗い』一つは『シャワー室』もう一つは『仮眠室』と札が掛けられていた。

仮眠室の隣には小さなキッチンがあり、簡単な食事が作れるようになっていた。



「そのままでは風邪をひく。着替えた方がいいが、生憎女性用の服が無い。そうだな・・・シャワーを浴びてくるといい」


言いながら、クローゼットからタオルとバスローブを出してくると、キョトンとしているエミリーに手渡した。

あまりにも手際のいい準備ぶりに、不思議そうな表情をして聞いてきた。


「パトリックさん、ここに来たことあるんですか?」

「あぁ、よくここに泊るんだ。ここは、モルトたちが繁忙時に泊まったり休憩したりするところなんだが、私も忙しくて屋敷まで帰るのが面倒な時があってね。そういうときはここに泊るんだ。薔薇園を見ながら休めるなんて最高の場所だろう?」


「そうですね。本当に素敵だわ。3階のお部屋からも薔薇園が一望できるんです。来年にはきっと、綺麗な薔薇園がお部屋から見られるわ」


そう言うエミリーの瞳はとても悲しげだった。



「さぁ、君は早くシャワーを浴びておいで。服も乾かさないといけない」


シャワー室の扉を開けて、背中を優しく推した。

パタンと閉められるシャワー室の扉。


暫くすると水音が耳に届いてきた。


シャワー室の扉を背にし、窓際の椅子に座ってパトリックは天井を見上げた。

何を想うのか、ブルーの瞳がそっと閉じられる。


エミリーがシャワーを浴びている間、ずっと窓の外を見やっているパトリック。

そのそわそわとした雰囲気は、まるで何かを待っているよう。


やがて水音が止まり、扉がキイと開けられ、パタンと閉められた。



「ありがとうございました。少し温まりました」



ガラス窓にバスローブ姿のエミリーがぼんやりと映る。



その姿は暖炉の傍に行き、濡れた服を火にかざしていた。


薄いバスローブに身体の線が浮かび上がっている。



ガラスに映るその姿から目を離すことが出来ない。


「エミリー、そこにハンガーがあるだろう?掛けておくといい」