シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

眉を寄せて抗議の声を上げるウォルター。

その表情は、明らかにパトリックのことを警戒していた。


―――全く、どうしてこう、アランの周りには忠実な部下が多いんだ・・・。

と言うよりも、彼女に忠実と言った方がいいのか―――


「エミリーすまない。ちょっと、待っててくれ」


ウォルターの近くまで寄ると、小さな声で囁いた。


「君は戻れ」

瞳には威厳が宿り、ウォルターを鋭く見据えている。

さっきまでのパトリックと雰囲気がガラリと変わっていた。


「パトリック様、私は二人きりにすることなどできません。あなた様は先程、全力で止めろと仰せになりました。今あなた様は、明らかに危険な考えをお持ちと見えます。命令を聞くと同時に、御正女候補となられたエミリー様もお守りしなければなりません」

威厳に怯むことなく毅然とした態度をとるウォルター。


――御正女か・・・。あの大臣どもがよく承諾したな・・・。


「だが、まだ儀式は済ませていないだろう。彼女も承諾していない。第一、その言葉も知らないと思うぞ?正式には、彼女はフリーだ。私を止めるな。いいか?アランが迎えに来ないのが悪い。彼は私に彼女のことを任せると言ったんだ。彼女の同意があれば、それは自由だ。さぁ、君は戻れ。これは長官としての命令だ」


「パトリック様―――しかし・・・分かりました」


パトリックを鋭い瞳で睨みかえし、唇を固く結んだ。

ウォルターは傘をパトリックに突き返して、雨の中を足早に戻っていった。



「エミリー、待たせたね。行こうか」


手を引いて立ち上がらせると、しなやかな身体がフラッと揺れた。


「―――っと・・・大丈夫かい?」


「はい・・・大丈夫です・・・立ち眩みしただけですから」


「ちょっとこれ持ってくれ」


開いた傘を渡されてキョトンとするエミリーの前で、パトリックの体が沈みこむと同時に、ふわっと身体が浮いた。


「え・・・?あの、わたし凄く濡れてて。パトリックさんまで濡れてしまいます。だから下ろして下さい。歩けますから」


「いいから。君はきちんと傘を差しててくれ。これ以上君を濡らすことは出来ないからね」





雨の中、薔薇園の中を一つの傘が小屋に向かっていく。



その様子を見つめるブルーの瞳。


薔薇園を見渡せる唯一の部屋、3階の正室の部屋。


正方形の小さな窓から見つめる瞳は、冷たい光りを宿し、拳を握り締めていた。