シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

追いついたウォルターが前に立ちはだかって、両腕を広げた。


「お願い・・・ひとりにして・・・お願いだから」


涙に濡れた瞳で懇願するエミリー。

広げられた腕の脇をするりと通り抜け、走っていく。

成す術もなくそれを見送るウォルターの顔が苦悶に歪んだ。



「チッ!―――ひとりになどできません!エミリー様!」


走るうちに、エミリーは薔薇園の噴水広場に来ていた。

園の中はチラホラ花が咲いていて、しとしとと落ちる雨に花弁を重そうにもたげていた。

噴水の水も止められていて、真ん中の乙女象が寂しげに雨に打たれている。



――寒い・・・。

このまま雨の中に溶けて消えてしまいたい。

もうアラン様の傍に居られないもの。

あんな風に飛び出してしまって・・・もう戻ることなんてできない。



雨に濡れながら薔薇園の中をぼんやりと歩いていると、向こうに水屋が見えてきた。

エミリーはそのひさしの隅に蹲った。

膝を抱えて蹲る小さな肩がひっそりと震えていた。

寒いのか泣いているのか、遠くから見ていると判断がつかない。


そんな姿を、雨に打たれたまま見守る人影がひとつ。

ただそこにいて見守ることしかできない人物は、辛そうに眉を寄せていた。


――何故あのようなことになっているのか。一体何を悲しまれているのか。

アラン様と何かあったのだろうか。けんかでもされたのか?

出来ることなら私は――――

いや、何を考えているんだ私は・・・私はただお守りするだけだ。


人影は顔を顰め、口を固く結んだ。

すると、しとしとと体に当たる雨が、突然スッと何かに遮られた。

こんな風に、気配なく近付けるお方は、あの方たちだけ。


「エミリー様はあそこにおられます」


ホッとしながら振り返った瞳に映るのは、予想外の人物。


「あぁ、分かっている」


確か、護衛はあの方を呼びに行った筈だ。


「どうしてあなた様が?」


「アランに行くように頼まれてね。彼は今、珍しく弱気になっているようだ」



“すまぬが、彼女を連れ戻してくれ。私ではまた逃げられる。君は彼女に相談を受けておると申した。悔しいが、君ならば心を開く。それに、こういうことは君の方が得意であろう?”

“いいのか?彼女が望めば屋敷に連れていくぞ?”

“望むのなら、やむを得ん――”



―――全く、本当に彼女を貰ってしまうぞ。



「ウォルター、そんな怖い顔で睨むな。心配するな、決して悪いようにはしない。だが、私の気持ちは君も知ってるだろう?もし、私が暴走したら、全力で止めてくれ」