シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「私ではダメなのか?私では、訳を聞くことも、涙を止めることも出来ぬのか?」


失恋した相手に、訳など言えるはずもない。

エミリーは俯いて、ただ首を横に振ることしかできなかった。


――お願い、もう何も聞かないで・・・何も言わないで。


アランからの視線を避けて横を向いて俯いた。

すると、手の上に乗せられていた手がすっと離れ、ブルーの瞳が哀しげに空を見た。


「私は、君の前では何の役にも立たぬな。やはり、パトリックでないと駄目か?君は、彼を好いておるのだろう?今、ここに連れて参る・・・待っておれ」



静かに言う声色は、辛く苦しげに聞こえた。

立ち上がりかけたアランがピクッと反応して、動きを止めた。

瞳に映るのは、袖を掴むか細い指先。

驚いたようにエミリーと指先を交互に見つめるブルーの瞳。



―――待って。違う・・・違うの。

お願い、そんなこと言わないで。

そうじゃないの。そんなんじゃないの。


パトリックさんじゃないの。

わたしが好きなのは―――



「アラン様、違う。違うの。わたしが好きなのは、あっ―――!!」



急に立ち上がるエミリー。その影響で、ガタっと音を立てて椅子が倒れた。



「ごめんなさい。わたし、何てことを・・・忘れて下さい」



口を塞ぎ、しなやかな身体がふわりとアランから離れていく。

走り出した身体は、捕まえようと伸ばされた手をスルリとすり抜け、廊下に駈け出して行った。

部屋から出るとき、目を丸くした講師の顔がちらっと目の端に映った。



「―――っ!?エミリー様!!何処に行かれるのですか!?お待ちください!!」


護衛だまりから護衛が滑るように飛び出し、追いかけていく。

軽やかに走っていくしなやかな身体は、警備兵の制する声も腕もするりとすり抜け、階段を降りて玄関へと走っていく。



「お待ちください!エミリー様!どちらに行かれるのですか!?」


ウォルターの制する声が玄関に響いた。

エミリーは雨の中、外に飛び出し、ただやみくもに走った。

とにかくあの場から逃れたかった。



思わず口をついて出た言葉。



あのままあそこにいたら、噤んだあとの言葉を言ってしまいそうで。


嫉妬にまみれた顔を向けてしまいそうで・・・。




雨の中、走っていく身体の後を護衛とウォルターが追いかけていく。


「エミリー様、お待ち下さい!一体どうしたと言うのですか?」