シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

3階の部屋の中、磨き上げられたテーブルの上で、虹色の羽ペンがサラサラと文字を書いていく。

講師が心配そうに、そわそわとしながらそれを見つめていた。

さっきから何度も廊下の方を見やっている。


その瞳が一瞬見開かれ、安心したように頷いてニコリと微笑んだ。



「エミリー、大丈夫か?」



アランの瞳が、真っ直ぐにエミリーに向けられ、椅子に座るしなやかな身体を調べるように見た後、脇に跪いて羽ペンを握る手をそっと握った。



「アラン様・・・どうしてここに来たのですか?」



――知らせないでって頼んだのに・・・。こんな顔見せたくないのに。



握っていた羽ペンを置いて、大きな掌の中からそっと逃げ出した。俯いて、なるべく顔を見られないようにした。



「君は、一体何をこんなに我慢しておる?」



逃げるように膝の上に置いた手に、大きな掌が覆いかぶさった。

今度は逃がさないようにぎゅっと握りしめられている。

気を利かせた講師は、アランが跪く瞬間に頭を下げて部屋の隅の、扉の近くに下がっていた。


「アラン様、手を離して下さい・・・少し痛いです。それに、アラン様は今、とても忙しいのでしょう?わたしは大丈夫ですから、もうお仕事に戻って下さい。迷惑掛けてほんとうにごめんなさい・・・」


膝の上で重ねられている手をじっと見つめた。

痛いと言ったせいか、握っていた手の力が弱まりふんわりと包み込んでいる。

離してくれる気配はない。


――どうして?どうしてこんなに優しくしてくれるの?

アラン様はシンディさんが好きなのでしょう?

他の女の人に優しくしたらダメ。


“ぎゅーっと抱き締めてくれたの”


“私はそうっと瞳を閉じたの。その先は分かるでしょ?”


シンディさんとキスしたのでしょう?



わたし、アラン様が何を考えているのか、わからない―――



アランの大きな手の甲にポタッと雫が零れおちた。



「何を泣いておる?私には、涙の訳を話してはくれぬのか?」



溢れる涙は後をたたず、アランの手をどんどん濡らしていく。

エミリーは無言のままふるふると頭を振った。



少しでも声を出してしまったら、想いを口にしてしまいそう。


苦しい想いを吐き出してしまいそう。


そんなことは迷惑になるだけ。


妹だと思っている者がそんな想いを持ってるなんて知ったら、困るだけだもの。

だから絶対口にしてはいけない。


大きな掌の中で握られた小さな拳にきゅっと力が入った。