シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

瞳を閉じて、すーっと顔を寄せていった。


――アラン様の息がとても近い・・・きっと、もうすぐ唇が重なるわ―――

ずっと、ずぅっとこれを空想してきたの。


アラン様とのキス。


アラン様の顔がとても優しくて、ぎゅーっと抱き締めてくれて“好きだよ”って囁くの。


シンディの夢のような想い。

小さな胸が壊れそうな程にドキドキと脈打ち、唇は期待にふるふると震えていた。



それを冷静な手がぴたりと止め、見事に打ち砕いていく。


細い肩に置かれた手に、密着させていた身体をグイッと引き剥がされてしまった。


「私は忙しい。時間が無い故、早く稽古の成果を見せよ。良いか、出来ぬなら休憩時間返上だぞ」


「うそ、あれ、本気だったの――?」


急に現実に引き戻され、瞳を瞬かせてアランを見上げた。

さっきの辛そうな顔は何処へ行ったのか、もういつもの顔になっている。

しかも、いつもより眉が寄せられていて、何だかとても機嫌が悪そうだ。

シンディの空想上の甘い顔が、バラバラと崩れ落ちていった。


アランが手で合図をすると、オルガンがゆったりとした旋律を奏で始めた。

それとともに、シンディの表情が、スーッと真剣なものに変わっていく。

しなやかに身体をくねらせ、空に向かって手を伸ばすように舞う姿はとても美しい。



コンコンコンッ!


「失礼致します!―――アラン様、此方におられましたか!?」


相当走り回って探したのか、警備兵が息を切らして入ってきた。


「騒がしい、何事だ。場をわきまえよ」


「申し訳ありません!」


警備兵は部屋の中を見渡し、丁寧に頭を下げた。

音楽が鳴る中、シンディも舞うのをやめて、警備兵の様子を見ていた。



―――随分慌ててるけど、何か大変なことが起きたのかな?


「御正女様の護衛より、伝言を預かりました」


こっちを見ているシンディを一瞥し、警備兵は声を潜め、密やかに伝言を伝えた。アランの顔色がすーっと悪くなっていく。



「分かった。すぐに参る―――シンディ。急用が出来たゆえ行かねばならぬ。舞いは、またゆっくりと見る時間を作る。今日は少々忙しい」


それだけを伝えると、アランはすたすたと部屋を出ていった。



「待って!」


残されたシンディは、部屋から出ようとする警備兵の腕をしっかりと捕まえた。


「ね、アラン様は何処に行ったの?」


「御正女様のところに行かれました」


――御正女・・・って何?初めて聞く言葉だわ。



「ね、御正女って―――もうっ!行っちゃった・・・」