シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

政務塔の2階。少し広めの部屋の中。

長い机が折りたたまれて隅に積み上げられている。

窓の脇に置かれたオルガンの前で、黒い服を着た広い背中がゆらゆらと動いている。

沢山の椅子は隅に避けられ、ひとつの壁際を埋めていた。

奥の壁には大きな鏡があり、長い銀髪をサラサラと揺らす少女を映していた。

腕を伸ばしたり折ったり、掌をひらひらさせたり・・・。

ここは普段、政務塔の高官達が会議をしたり、ダンスのレッスンをするところ。

毎年月祭りの準備期間中、舞いの稽古のために、レッスン用に使用される部屋。


シンディは只今稽古の真っ最中。

たおやかな音楽が部屋の中に響き、細い身体がしなやかに動く―――


「はい、もう完璧に覚えられましたね」


オルガンを弾いていた手を止めた神官は、目を細めて手を叩いた。

鏡の中のシンディが嬉しそうに笑っている。



「シンディ、待たせた」



静かになった部屋に急に割り込んで来たテノールの声。

鏡に映り込むのは背の高い銀髪の男性。

振り返ったシンディの瞳が、ぱぁっと輝いて走り出した。



「アラン様!遅かったじゃない。今日はもう来ないかと思ったわ」


ぎゅっと抱きついて、ぷうっと口を尖らせて上目使いに見上げた。シンディは、とても可愛い。今まで、大抵の男の子はこの仕草で虜になった。


――アラン様だって男だもの。この仕草に弱いはずだわ。


「思うよりパトリックとの話が長引き、今の時刻になってしまった」


そう言うアランの表情は、何だかとても辛そうに見えた。



――ウソ、こんな顔初めて見るわ。

もしかして、遅れたことを凄く反省してるの?


それって、やっぱり、私のこと好きってことよね―――?


「いいの。私は、アラン様さえ来てくれれば・・・」


胸に顔を埋めてぎゅーっと抱きついた。


――ほらね、拒まないじゃない。やっぱりそういうことなんでしょ?

ね、アラン様。


シンディは確信したかのように微笑んだ。



「ね、アラン様。私のこと好き?私はね、アラン様のこと、子供のころからずぅっと好きよ?」




「シンディのことは・・・勿論好いておる」



「アラン様、本当!?嬉しい!」



ぱぁっと花が咲くような笑顔を向け、背中にまわしていた手を首にして、飛び上がるようにギュッと抱きついた。



「ね、アラン様。私、綺麗になったでしょう?もう子供じゃないわ」



体に胸をぎゅっと押し付け、首を傾げて潤んだ瞳で見上げた。


見つめる先はアランの唇。



――こんな風になるなんて、夢みたい・・・。



目の前の唇をうっとりと見つめた。




「ね、アラン様、お願い。いいでしょ―――?」