シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

護衛が隣にいた警備兵に目線で合図すると、素早く廊下の向こうに消えて行った。

声を潜め、部屋の中には聞こえないように会話を交わす二人。

いつまでも戻らない講師と、密やかに話す様子が気になったのか、エミリーが近付いてきた。


「あの、わたしは大丈夫ですから。もし、“アラン様に報告する”なんていうお話なら、やめて欲しいの。アラン様には知らせないで」


昨日の哀しげな瞳が頭から離れない。

もうこれ以上迷惑をかけたくない。


「駄目です。大丈夫では御座いません。そのように涙を溜めておられるのに。私は、あなた様に異変があれば、どんな些細なことであっても“すぐに申し伝えよ”と命じられております。その命に背くことは出来ません」


「でも、身体の具合が悪いとか、そういう訳ではないの。だからお願い、心配掛けたくないの」



―――こんなわたし見せたくない。

塔を出ていくその日まで、アラン様には笑顔を向けていたいのに。

アラン様の記憶に残るのは笑顔のわたしでありたいのに。

今来られてしまったら、きっと泣いてしまう。


きっと言ってはいけないことを言ってしまう。



「具合が悪くないであればなおさら――」

「そこで何をしている?今の時間は講義の時間のはずだ」



廊下に響く鋭い声。その声の主は固まって話す3人の傍まで来ると、エミリーに向かって丁寧に頭を下げた。


「エミリー様、昨夜は大変申し訳ありませんでした。つい職務に夢中になってしまい本当に申し訳ありません。ですが、あなた様を守るためにしたことですからどうかご容赦ください」


「ウォルターさん、いいんです。あれはわたしが悪いのですから。そんなに謝らないでください。あの、罰のことなんですけど」

「罰はまだ決めておりません。それよりも、この状況は一体。どうかなされたのですか?」


「ウォルター殿、申し訳ありません。今エミリー様の具合が悪いと、講師より報告がありましたので、アラン様にお知らせしようとしているところです」


「そういえば、顔色が優れませんね。失礼致します」


ウォルターは心配そうに言いながら、エミリーの額に手をそっと乗せた。



「熱は無いようですが・・・――――っ!!私としたことが―――失礼致しました」


サッと手を引っ込めて顔をしかめ、唇を固く結んだ。



「私がお知らせ申し上げる」


呟くように言いおいて、サッと踵を返した。