シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「エミリー様、どうかなされましたか?さっきからずっと、上の空で御座います」

講師が心配げにエミリーを見た。


アランの塔の3階の部屋。開け放たれた部屋の扉。

猫脚テーブルを挟んで向かい合う講師とエミリー。

テーブルの上には御茶と甘い御菓子。

それに教科書となる『王家のしきたり』が置かれ、エミリーの手元には綺麗な薄いピンクの紙と綺麗な虹色の羽ペンが転がっていた。


「顔色がすぐれませんが、ご気分が悪いのですか?」


ぼんやりとしていたアメジストの瞳がパッと見開かれ、講師を見た。

眉をひそめ、これ以上にないほどに心配げな顔をしてエミリーを見ている。



「いえ、そんなことはありません・・・。ごめんなさい、ぼんやりしてて。どうぞ続けてください」


羽ペンを握り、急いで微笑みを作った。だが、アメジストの瞳は輝きを失い、頬は青ざめている。

講師はふぅっとため息をついて立ち上がると、開け放たれた扉の脇に立った。

塔の3階、少し弧を描く廊下の端に、警備兵が歩いているのが見えた。



「すみません!護衛の方はどちらにおられますか――」



講師の声が廊下に響くと、警備兵がこちらに急いで走ってきた。

同時に、警備溜まりにいた護衛が現れて講師に向き合った。

二人の兵士の瞳が鋭く講師を見つめる。


「エミリー様がどうかなされましたか」

「講師殿、何か御座いましたか」


護衛がサッと部屋の中を見やり、するどく瞳を彷徨わせた。

椅子に座って俯くエミリーの姿が見える。



――やはり様子がおかしい。

今日は朝からずっと様子がおかしい。

いつも感じられるほんわりとしたオーラもずっと沈みがちだ。

何があったのか、話を聞いてあげたくなる。

パトリック様の気持ちも分からんではないな・・・。

それに、あの時、シンディ様と何かお話になってから、ますますお元気がなくなってしまった。

昼食も、あまり召し上がらなかったと料理長が呟いていた。

結局、フランク殿から頼まれた書類も、何故かシンディ様にお預けになってご自分で渡していない。

一体何をお話になったというのか。



「エミリー様の様子がおかしいのです。顔色もすぐれません。医官に診ていただいた方が、宜しいのではないでしょうか」


「分かりました。アラン様にお知らせ致します」