シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

エミリーが泣き疲れて眠った頃

部屋の外では2人の男が密やかに話しをしている。


「どうだ?」

「今日も一日教養に励まれ、勉学は真綿が水を吸うごとくに吸収され、

ダンスは日を追うごとに上達しております。日ごとに令嬢らしくなられています」

その答えに、ブルーの瞳が満足げに輝き一瞬優しくなる。

「もう、休んだか?」

「はい、いつものようにお休みになられています」

「いつものように・・・か」



夜の警護をしている兵士に聞こえないよう囁くような会話を交わした後

アランは静かに扉を開いて部屋に入った。

静かな寝息が聞こえてくるベッドに足音もさせずに近付く。


すやすやと眠るエミリー。

その頬には拭うことがなかった涙の跡がみえる。

「やはり・・・今夜もか」

壊れ物を触るように、そうっと武骨な手で辿るように優しく撫でる。

部屋の中には今日も月の光がふわふわのブロンドの巻き毛に差し込み、幻想的な光を放つ。



国から遠く離れ、毎晩孤独と戦いながら眠りに就く少女は

あの日の夜、執務室で自分がどうやってあそこに来たのか分からないと

涙を堪えながら訴えてきた。


震えながらまっすぐにこちらを見るアメジストの瞳・・・。

ひどく怯えていて、今にも倒れそうだった。



その姿を思い返していると、急に胸の奥深くがチクリと小さく痛んだ。

思わず手で押さえて首をかしげるも、一瞬だったためすぐに忘れてしまった。


━この時感じた胸の奥の小さな疼きが、後に心の中で大きく育っていくことになるのだが・・・・

この時のアランには分かるはずもない━



「早く孤独が癒えると良いが・・・」

小さな呟きとともに、頬にかかるブロンドの髪を優しく払う。

寝顔を見つめるブルーの瞳は、暫くそこから動こうとはしなかった。