シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

コンコン―――

「―――っと。すまない。お邪魔だったかな?」


パトリックが曖昧な笑顔を浮かべて、扉を背にして立っていた。

パトリックの瞳に映るのは、シンディを抱くアラン。

しかも二人の顔は、キスをしそうなほどに近い。した後なのか、今からするところだったのか。


「パトリック、何を言っておる。シンディ、先に行っておるが良い。後で行く故、待っておれ」

シンディの身体をサッと起こし、首にまわっていた腕をグイッと離した。



――もう!お兄様ったら。どうして、今、ここに来るのよっ


シンディはせっかくのチャンスを兄に壊され、ムスッと膨れた顔をした。

とんがった口に膨らんだ頬でパトリックを睨んだ。

そんなシンディの頭をポンポンと叩いて優しく微笑み、パトリックは申し訳なさそうに言った。


「シンディ、すまないね。アランに話があるんだ。二人にしてくれるかい?」


「分かったわ。ね、アラン様、後から来てね。絶対よ?」


シンディは長い銀の髪をさらりと揺らし、執務室から出た。



――何の話をしてるのかしら

パタンと閉めた扉にもたれ、少し耳をすませてみた。が、予想通り何も聞こえない。諦めたように扉から離れ、睨みつけた。


――もうっ。もう少しだったのに。でも、いいわ・・・またチャンスがあるもの。

もう私の気持ちは伝えたし、すぐに拒まなかったっていうことは、少しは脈があるってことよね?



嬉しそうに微笑み、弾む心を抑えられずに舞いのステップを踏みながら、レッスン室に向かった。



――あれ?エミリーさんじゃない・・・。どうしてここにいるのかしら。



廊下の向こう側からエミリーが歩いてくるのが見える。

無機質な政務塔の2階の廊下。

エミリーの周りは、ほんわりとしたあたたかい空気が漂い、忙しげに歩く高官の険しい表情が、エミリーに近付くにつれ、すーっと柔らかくなっていった。

高官は、エミリーに向き合うとにっこりと笑って頭を下げた。

高官の手が執務室の辺りを指差して、にこにこと笑っている。



―――あの高官、いつも難しい顔ばかりしているのに。あんな顔もするのね・・・。

ていうか、それよりも、やっぱりアラン様に会いに来たのかしら・・・。

あの高官も執務室を指さしていたし。


シンディは爪を噛みながら考え込んだ。


どうにかしてエミリーさんを帰さなくっちゃ。

せっかく今さっき告白して、良いムードになっていたのに。

ここで会いに行かれたら、私の告白のインパクトが薄れちゃうわ。

あぁん、もうっ。こっちに来ちゃう―――



「エミリーさん!」