シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

政務塔の長い廊下。

医務室から出て、塔の方へ向かって行くと2階に上がる階段が見えてくる。

登城してきた高官や兵士たちが忙しげに階段を上ったり下りたりしている。

月祭りが近いこともあって、政務塔は普段にない賑わいを見せていた。


エミリーは階段の脇で立ち止まって上を見上げた。


――この上にアラン様が仕事をしている執務室がある。

この城に初めて来たあの時、メイに案内されて行ったっけ。

あのときのアラン様はとても怖かった。

あれから一度も行ってない。アラン様の仕事場。

今頃机に向かって、どんな難しい顔をしているのかしら。

私の知らない顔。

アラン様の仕事の顔。



「エミリーさん!すみません。お待ち下さい!」


フランクが後ろから慌てふためいて走ってきた。手には何か小さな封筒を持っている。


「良かった・・お待ち下さいっ・・・はぁ・・・いけませんねっ。普段運動をしていないもんですから・・・少し・・・お待ち下さい」


膝に手を当て、ゼイゼイと吐く息を整え終わると、ずれた眼鏡を直してエミリーに向き合った。


「エミリーさん、この書類を王子様に渡していただけますか。頼まれていた急ぎの書類なんですが、今、患者さんが来ていましてね。医務室を抜けられません。だから、お願いしても良いですか?」


―――書類・・・?書類というよりもお手紙みたいなサイズだけれど・・・。

「これを、アラン様にですか?でも、わたしが執務室を訪ねてもいいのかしら?あの兵士の方に頼んでみたらどうですか?」


玄関から入ってきた兵士を見ながら、フランクに提案してみた。

兵士はニコリと笑ってエミリーに頭を下げて通り過ぎていく。


「いいえ、兵士ではダメなのです。この書類はエミリーさんでないと。兎に角、届けてください。きちんと王子様にお渡しください。いいですね?」


有無を言わせぬように強く言って、戸惑う手に無理やり封筒を渡し、逃げるように医務室に帰って行った。


「え・・と。とりあえず、執務室は上よね?―――でも、行ってもいいのかしら」

困ったように護衛を見ると、無言でゆっくりと頷いていた。


確かに会いたいと思ってはいたけれど、いざ、会えるとなると足がすくむ。

嬉しいけれど、怖い。


冷たい瞳で見据えられそうで。


出会った頃のように、冷たく鋭い視線を向けられそうで。