シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

一方、こちらはなんだか気まずい空気の医務室の中―――

パトリックが去ったあと、護衛はホッとしたように体の力を抜いていた。

今まで、どれだけ気を張っていたか改めて気付かされる。

あの方には全く油断できない。

お二人で庭に出られた時、あの時からあの方のエミリー様に対する態度が明らかに変化した。

この方はアラン様の正室の部屋に住んでいるというのに、遠慮する様子が全くない。

正式には決まっていないが、お妃になられることは間違いないのに。


一体何を考えておられるのか。



「エミリー様お部屋にお戻り下さい。それから・・私が申し上げることでは御座いませんが・・その様に涙を流される程嫌であれば、きちんと拒否して下さい」


「そうよね。そう思うわよね。でもわたし、どうしたらいいのかよく分からないの」


想う相手は王子様・・・あまりの身分差に、決して叶わぬ想い。

自分に向けられているパトリックの愛情の深さ

このまま飛び込んでいけばいいのかもしれない


けれど―――


「エミリー様の想う通りになされたら良いのです。誰もあなた様の悲しむ姿など見たくはありませんから。だからそのような顔は―――」


護衛はハッとしたように口を閉じ、拳を握って顔をしかめた。

守りに徹する自分がこんなことを言ってしまうとは・・・。

主の心にまで踏み込んではいけない。後悔するように唇を噛んだ。


「今申し上げたことはお忘れください。フランク殿に部屋に戻る旨、伝えて参ります」


護衛がサッと踵を返すと、丁度フランクが治療室から出てきた。

護衛と目が合うと、眼鏡の奥をフッと緩めて耳打ちした。


「お疲れ様。あなたも辛い立場ですね」


護衛の鋭い瞳がスゥっと緩み、伏せられた。


「私は、お守りするだけです」



フランクは労うように護衛の肩にポンと手をおいた後、小鳥の棚の前で俯いているエミリーに向き合った。


「エミリーさん、私は多くを語ることはできませんが、王子様は、それはもう、あなたのことを大切に想われていますよ」


「フランクさん・・・?」


「すみません、覗くわけではなかったんですが―――まぁ、あの方も大変ないい男ですがね・・・。どちらをお選びになるのかはあなたなので、私共は口を出すことはできません。さ、早くお部屋に戻って下さい。今日のことは私は何も見ておりませんから、ご安心下さい」


フランクに優しく背中を押され、エミリーは医務室を後にした。