シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

柔らかなブロンドの髪にそっと差し入れられた手。

頬から身体にまわっていた腕が徐々に強まって腰が引き寄せられ、パトリックの体に密着していく。

潤んだ瞳で大人しく従うエミリーの反応に、ブルーの瞳が優しげな光を湛え、溢れる想いはもう止まりそうにない。


「良いんだね?・・・もう、止まらないよ?」


唇はどんどん迫り、エミリーは身体をギュッと硬くしながらも、観念したように瞳を閉じた。


その拍子に、ツーと頬を伝う一筋の涙。


パトリックの唇がピタッと止まり、戸惑いの表情を見せ、少し迷ったあと涙が伝う頬にそっと唇を乗せた。


「この涙は、嬉し涙かい?それとも―――」


無言で見上げるエミリーの表情は、やはり悲しげだった。


「やはり、まだもらうわけにはいかないな・・・。今の君は、いつもと違っている。心がどこかに行ってしまっているようだ。この状態でもらっても、自信を持って私のモノだとは言えないからね」


頬を伝う涙をハンカチでそっと拭いながら、パトリックは背後に伸ばされていた護衛の腕を、後ろ手でガシッと掴んだ。


「それに、さっきから君の護衛が殺気を放っていて、とても落ち着かないからね」



護衛はパトリックの真後ろで、事の成り行きを見ながらずっと悩んでいた。

相手は兵士長官で、アラン様の従兄。

私はアラン様の大切な方を守るのが仕事。

今にも唇を奪われそうなのを、黙って見ていてもいいのだろうか。

相手が兵士長官とはいえ、組伏せた方がいいのだろうか。

だが、エミリー様は嫌がる風もなく、身を任せている。


“危険がない限りは、エミリーの行動を止めてはならぬ”


相手がパトリック様なら、確かに危険はないが―――


見ているうちにパトリックの唇がどんどん迫って行く。

知らず知らずのうちに足が前に進み、気付けば今にも腕を掴もうとする自分がいた。

伸ばした瞬間にガッシリと捕まれた腕は、振りほどこうにもほどけない。

この優しげな男のどこにこんな力があるのか、どんなに力を入れてもびくともしない。護衛は悔しげに唇をかんだ。


――やはりこの方はただ者ではない―――




「失礼します。エミリー様、もうお部屋に戻る時間で御座います」


「全く、君は任務に忠実だな?アランに対する忠誠心は誉めたいところだが、不粋なところはどうもいただけない。こういう時は目を瞑っておいた方がいい。エミリー、君の話を聞く時間は必ずとる。また会いに来るよ・・・」


額に甘い口づけを残し、来た時と同じ様に、静かに医務室を出ていった。