シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「パトリックさんのお屋敷に・・?それは、城下に行くということですよね。お誘いは嬉しいですし、お屋敷に行ってみたいけれど。やっぱりあの―――」

どう答えたらいいのか、俯いて言葉を探すエミリー。


「やはり、アランが許すはずもない・・・か。君がアランの保護下にいる間は自由には出来ないな。だが、城下でなければ良いわけか」


ブルーの瞳が思案気に窓の外を見つめた。

外は相変わらずしとしとと、柔らかな雨が降っている。


「でも、パトリックさんは今、お忙しいのでしょう?無理はしないでください。わたしならもう平気ですから」

「あぁ、今は月祭りも近いからね。週末も休みなしで準備に追われる。だが、君のために時間を作るのは楽しいことで、自分のためでもあるんだ。だから遠慮はしないでくれ。しかし、やはり夜しか時間がとれそうもないな・・・」


残念そうにしながらも、どこか嬉しそうにエミリーを見つめるパトリック。

どんなことであれ、自分を頼ってくれたことがとても嬉しい。

おかげで、身体に回した腕はまだ当分の間離せそうにない。


「一つ聞かせてくれ。君は私の誘いを嬉しいと言ってくれたが、本当にそう思ってくれたのかい?」


パトリックの問いかけに、複雑な想いを抱えながら頷くエミリー。


「それは、私のことを少しは想ってくれていると、考えてもいいのかな?」


パトリックの優しい手がエミリーの頬を包み込むと、アメジストの瞳が戸惑うように揺れた。


「少しでも、私のことを想ってくれているのなら―――」


パトリックの片腕が護衛を制するように、後ろにサッと伸ばされた。

その腕を見て、顔を顰めて息を飲む護衛。


「この、まだ誰のモノでもない、この可愛い唇・・・。今、私のモノにしてもいいかい?」


優しい指がふっくらとした唇の輪郭をスゥーと辿った。

柔らかな微笑み。潤んだブルーの瞳がキラキラと輝く。

惜しげもなく愛情を表現するパトリック。


言葉にしなくても溢れる想いがひしひしと伝わってくる



――この感じ、この唇を辿る指先の感触。

前にアラン様が同じ様にこうしていた―――

でも、あのときのアラン様はとても辛そうにしていたわ。

今のパトリックさんとは違う・・・どうして違うのかしら。




このままパトリックさんの唇を受け入れてもいいの?


アラン様・・・アラン様は、あのとき何を想っていたの?



――わたしは何をされてもかまわなかったのに


あのとき、どうして離れてしまったの―――



「黙っているということは、もらっても良いってことかな?」