シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

楽しげに餌をあげているエミリーの背後で、静かに身構える護衛。

鋭い目に映るのは、動きを制するように差し出された優雅な手。

ブルーの瞳がスゥと細まり、護衛を一瞥した。

その非情にも見える瞳は“お前は下がっていろ”と言っていた。



「エミリー、おはよう。これが怪我をした小鳥かい?なるほど、可愛いね」


背後からスッと伸びてきた手が、ピンセットを持つ手にそっと重ねられた。

優しい指先が白い指を愛しげに絡めとった。


突然のことにびっくりして振り向くと、すっぽりと身体全部を包み込むようにして、パトリックが真後ろに立っていた。


「あ、パトリックさん。おはようございます」

ピンセットを持っていた手を引っ込めて、パトリックから少し離れるように後退った。なんだか、少し身構えてしまう。


「今日はどうしたんですか?フランクさんに用事なら、今治療室に―――」

少し離れたにもかかわらず、腰にまわされた優しい手で、すーっと身体が引き寄せられていく。


「毎朝ここにいるとシンディに聞いて、君に会いに来た。迷惑だったかな?」


想いを隠すことなく、愛しげに見つめる瞳。逃さないように身体を囲む腕は、優しくみえるがしっかりと力が込められていて、か細い力ではどうにもほどけそうになかった。


「いえ、迷惑だなんて、そんなことはないですけど・・・」


―――優しいけれども強い腕・・・。

この腕に飛び込めばあの方への想いを忘れられるの?

パトリックさんなら、この苦しい想いを忘れさせてくれるの?



「何かあったのかい?今日はいつもと様子が違うね。もしかして、何か悩みごとでもあるのかな?」


「えっ?」


―――どうして分かるの・・・そんなに顔に出てるかしら


「やはりそうか。それは、アランに関係していることかな?それとも私に関係があることかな?」


優しく見下ろすパトリックの瞳に、この胸の中の想いを何かも話してしまいたくなる。

でも、それは決してしてはいけないこと。

想いを寄せてくれている相手に、そんなことは言ってはいけない・・・

でも塔の規律のことなら聞いてみても良いわよね・・・。



「・・・わたし昨日、塔の――」


「あぁ、ちょっと待って」

言いかけたエミリーの言葉を遮り、パトリックは思案気に瞳を伏せた。


「今少し、忙しい時期なんだが、調整すれば私の屋敷にご招待できる。明日の夜にでも食事をご馳走したいと言ったら―――君は来てくれるかい?その時なら時間を作ってゆっくり話も聞いてあげられるし、シンディだって君が来てくれれば喜ぶ」