シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「ふっ・・フランクさんっ、辞めて下さい。そんなんじゃありませんからっ。こうしておけば、私の仕事の負担が減りますからっ。別にあなたのために用意した訳じゃありませんからっ」

真っ赤になってしまった顔を隠すように、リードは手の甲を鼻の辺りにかざした。

金属でできた小さな器。


―――何が入っているのかしら・・・

恐る恐るその蓋を開けると、中には小さくされた小鳥の餌が一つ一つ丁寧に並べてあった。


「私が餌をあげているのを見て、また倒れられたら堪りませんから」


そっぽを向きながら無愛想に言うリード。まだ顔は赤いままだ。


「ありがとうございます。リードさん、こんなにたくさん。大変だったでしょう?」


「そんなことはありません。楽なものです――というか、別にお礼など要りませんからっ。全く・・あなたという人は・・・」


―――これだから苦手だ。この方がいると調子が狂う。

いつものように平静でいられなくなる。

それに、ずっと心に引っかかっていたあの出来事。

自分の目の前でふわりと倒れて言った身体。

まさかあんなことで倒れる人がいるなど思ってもいなかった。

おかげで、目に焼き付いて離れることがない。


「あ・・・先日のことですが――」

「え?」

「ッ・・・!あなたは何してるんですかっ。早くあげないと、アレは鮮度が命ですからっ」

顔をあげたら、いつの間にか傍に近付いていたエミリーの微笑み。


「あのっ、仕事がありますので、失礼しますっ」

それに驚いたリードは逃げるように後退り、治療室に入っていった。

フランクが呆れたように扉を見つめている。

暫くの後、くっくっくっとさも可笑しそうに笑い始めた。


「エミリーさん、許してやってください。彼は―――」



リードはと言えば、バタンと閉めた扉を背に、深いため息を吐いて呟いていた。

「やはりあの方は苦手だ・・・」



「・・・では、エミリーさん。私は治療室にいますので、お帰りのときは声を掛けてください。護衛の方、しっかり頼みますよ?」

フランクの脳裏に、この部屋から攫われていった記憶が蘇っていた。

もう二度とあんなことは起きて欲しく無い。

眼鏡をギラッと光らせるフランクに、護衛は静かに頷いた。


エミリーが金属の器から、餌を一つ摘まんで小鳥に差し出すと、つぶらな瞳を嬉しそうに輝かせて美味しそうに啄んだ。


「あなた、小さいのにたくさん食べるのね?元気になるのももうすぐだわ。早く外に帰って、まだ綺麗な声を聞かせてね・・」


その時、エミリーの背後で、医務室の扉が静かに開き、すらっとした脚が音もなく入ってきた。その脚が一旦止まり、また静かに扉が閉められた。