シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「エミリーさん、どうかしましたか?」

ボーっとしていると、フランクが心配そうに声をかけてきた。

「具合でも悪いんですか?少し、顔色が良くありませんね。失礼致します」

エミリーが答える間もなく、フランクが眼鏡の奥を真剣な色に染め、触診を始めた。

「うん、熱は無いようですね・・・。あなたが元気がないと、困る方がたくさんいますからね」

「ごめんなさい、少し考え事をしていたものですから、心配掛けてごめんなさい」

エミリーは心配げなフランクを安心させるように、微笑みを作った。

フランクの瞳が少し訝しげなものに変わっていった。


「エミリーさん?何か―――」

言いかけたフランクの声を打ち消すように、治療室の扉がバタンと音を立てて開いた。


「ちょっと待ってて下さい。すぐに戻りますから」


治療室の入口で向こうにいるであろう誰かに無愛想に言い残すと、リードはエミリーの傍に歩み寄った。


「あぁ、大きな音立ててすみません」


びっくりしているフランクとエミリーに謝り、少し迷うような表情を見せたあと、ぶっきらぼうに呟いた。


「さすがに、今日はもう来ないと思ってましたが・・・やっぱりあなたは変わってますね」


ムスッとした顔で、無愛想に差し出された手には、小さな器とピンセットを持っていた。

エミリーが受け取っていいものか戸惑っていると、それを鳥かごの傍に置いて、すぐにパッと離れた。



リードはなるべくエミリーに近付かないようにしている。

この清楚な美しさが苦手で、以前からも、なるべく近付かないようにはしていた。

それに加えて、何故かこの間から、あいつの目が自分を監視するように鋭く光っている。

身体に少しでも触れようものなら、あの鍛えられた腕でがっしりと組み伏せられそうで、とても用心していた。



あいつは、今もずっとこっちを睨んでいる。

フランクにはそんな素振りは見せないのに。

本当に、何だというのか。全く油断ならない。


そんな護衛をギロっと睨み返して、器を不思議そうに見ているエミリーに、ぶっきらぼうに言い放った。


「あなたみたいな人は、それを使えば簡単ですから」


「エミリーさん、器の蓋を開けてみるといいですよ。リードがあなたのために用意したのですから」


眼鏡をキラリと光らせ、にっこりと笑いながら、小鳥の治療に使った小さな薬品瓶のふたを閉めて、棚の上に置いた。


「そうですよね、リード?朝から待っていたんでしょう」