シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

エミリーがオズオズと声をかけると、料理長は持っていた紙を副長に渡した。

「じゃぁ、これで頼むよ」「了解しました」

こっちに向き直ると、大きな顔を笑顔で埋めて近付いてきた。


「エミリー様、おはようございます」


にこにこしながら大きな体を揺らして傍まで来ると、急に真剣な表情になり、近くに誰もいないのを確認して、内緒の声で言った。


「エミリー様。昨夜探していた大切なものは、見つけることが出来ましたか?それに、あのあとアラン様に叱られませんでしたか?今朝は、お二人とも食堂に来られなかったし。何かあったのかと、もう、私は気になって気になって・・・」

料理長の丸い顔が苦しげに歪んだ。


「今日は、アラン様も食堂に行かなかったのですか?」


「あの方は、エミリー様がいないときは、いつも食堂には来ませんからね。使いの者がこーんな顔をして“今日の食事は執務室にお持ちするように”って言ってくるんです」

料理長は使いの兵士の、ムスッとした顔と声を真似ておどけて見せた。


「え?・・・そうなんですか?」


「はい。そうです。きっと、お一人だと寂しいんじゃないかなぁ。エミリー様が塔に来られる前は、ずっと一人だったのになぁ・・・いや、まさかなぁ」

料理長は呟くように言って、首を傾げた。

あの氷の王子様が寂しいと思うのだろうか、自分で言っていても、何かしっくりこない。


「だから、今日はエミリー様に何かあったのではないかと思ってたんですが、元気そうで良かった」

にっこりと満面の笑みでエミリーを見る料理長。


―――寂しい?そんなことはないと思うけれど・・・


「・・・あの、今日は料理長さんに謝ろうと思って来たんです。昨日は迷惑掛けてしまって、ほんとうにごめんなさい。あのあと、アラン様に連れて行って貰って、ちゃんと見つけることが出来ました。ありがとうございます」


「そうですか!そりゃぁ、良かった。本当に良かった!」

料理長は心底嬉しそうに、大きな声をあげながらうんうんと頷いた。

動くたびに大きなお腹がふるふると揺れる。


「いやぁ、エミリー様。謝るだなんてとんでもないことですよ。エミリー様は悪くありません。あれは、私の提案ですから。エミリー様はあの時“辞めましょう”と何度も言われたじゃないですか。それを無理に連れて行ったのは私ですから。気にしないでください。しかし、あの時ウォルター様に見つからなければ、ばれずに上手くいったのになぁ」

腕を組んで目を瞑り、悔しげな顔をして首を振る料理長。


「あの、料理長さん。それで、アラン様に何か命じられていませんか?何か、こう・・・罰のようなものなんですけど。わたしも一緒に受けたいの」


「罰って何ですか?アラン様には何も命じられていませんよ?」