シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

メイったら、あんな風に、にこにこ笑うなんて・・・。

アラン様とは何もないのに。

あるはずがないのに―――


政務塔の廊下を歩いていると、すれ違う兵士たちがサッと道を開けて、頭を下げた。

兵士の試験が終わり、塔の中はいつも通りに人の行き来が激しくなっていた。

活気溢れる政務塔の廊下。

道を開ける者もいれば、話しかけてくる者もいる。


「エミリー様おはようございます」

にこやかに微笑みながら、傍に来て恭しく頭を下げる兵士。

一応背後の護衛をチラッと見るものの、あからさまに無視をしてエミリーだけを見つめている。


「あ、おはようございます」

「今日は生憎の天気で、我々も内勤にまわされたんです」


別の兵士が割って入り、エミリーを囲むように一人増え二人増えというように、少し人が集まってきた。


「エミリー様、今日は何をしに此方に来られたのですか?」

「アラン様にご用事ですか?執務室なら上ですよ」

「私が、ご案内いたしましょう」


差し出される何本もの手。

護衛がいるにもかかわらず、演習場で起きたことと同じ様なことが始まってしまった。


「いえ、違うんです。医務室に行くんです。すぐそこですから、場所は分かりますから。あの、どうぞお構いなく・・・ありがとう」


しかし、ここは政務塔の中。

護衛の瞳がいつもにも増して鋭く光り、上位の兵士が多いこともあって、大きな騒ぎにはなりそうもない。

挨拶の後、世間話をしようとしてくる者もいるが、護衛の鋭い瞳に睨まれると諦めたように去っていく。

挨拶をするたびに立ち止まるエミリーに、とうとう護衛が痺れを切らして、背後から鋭い声で囁いた。


「エミリー様、いちいち挨拶などは返さなくても宜しいです」

「え?でも・・・・」

「その様に気さくにされていては、守りの手が及ばない事態になりかねません。先ほども、あの時のようなことが起こりかけたではありませんか。宜しいですね?」


でも・・・そういうけれど、そうもいかないわ。

わたしは偉くもなんともないもの。

挨拶されているのに無視なんて出来ないわ・・・。


「わたしは、あなたを信頼しています。あなたがいるから、安心してこうしていられるの。どんな事態になったとしても、あなたの手から離れなければ、きっと大丈夫でしょう。さっきも、あなたの手がわたしの前にあったから平気だったもの」


にっこり微笑むエミリー。


護衛はまだ何か言いたそうにしていたが、苦しげに口を結んだ。