シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

児童書の棚の狭間。

壁の燭台の仄かな灯りの中で俯くエミリー。

少し離れたところで向き合うように立っているアラン。

渡された神話の本を手に持ったまま、ずっと黙ったまま、エミリーの様子を見ている。


さっきエミリーが一人で呟くように喋ったあとは、この状態で暫く沈黙が続いていた。



静かな夜更けの書籍室。

書棚の間をふわふわと漂う複数の白い影が、エミリーの頭上を幾度もかすめていく。

たまにその場に留まっていたり、アランの側で留まっていたり。


アランは元より気にも留めていないが、エミリーもそんな不気味な空気の騒がしさに、全く気付く様子がない。


そんなのを気にする余裕は全くないと言った方がいいか。

今、小さな胸の中ではあらゆる想いと戦っている最中で、この書籍室にいるモノのことなんてすっかり忘れていた。



気まずさを感じる程に長い沈黙――

それを漸く破ったのは、消え入りそうに震えた声。


「すみません。わたし、もう暫くここにいます。アラン様は、公務でお疲れでしょう?どうぞ、先にお部屋にお戻り下さい・・・ここの鍵は、明日お返ししますから・・・こんなことに付き合わせてしまって、ほんとうにごめんなさい」

エミリーはしおりを持つ手を見つめたまま、一度も顔を上げなかった。

豊かな髪が頬を隠すようにかかっていて、まるで、アランに顔を見られたくないかのよう。


「アラン様は明日もお忙しいのでしょう?わたしのことは気にしないで、早くお休みください。もうこんな夜更けですから、警備の方も必要ないですし―――ひとりで、大丈夫ですから」


もう皆眠っている時間。夜勤の警備以外は誰も起きていない。



――アラン様はずっと黙ったままで、さっきから一言も、何も話さない。

余程、わたしに呆れているに違いないわ。

こんなことのために、塔を抜け出したんだもの。

皆さんに迷惑をかけて、規律を破らせて・・・。


きっと、嫌われたわね・・・。


悲しいけれど、その方が良いかもしれない。


その方が、この想いにも諦めがつきやすいもの。



「分かった。だが、城中が寝静まっているとはいえ、何が起こるか分からぬ。廊下には警備兵を配して、鍵を渡しておく。もう遅い。君もなるべく早く部屋に戻るように・・・良いな?」