シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「アラン様、分かるのですか?」

影の唇が動くのみで、何を言っているのかはエミリーには分からないのに、アランはいとも容易く、当然のように通訳をしてくれた。

「多分、子孫だからだろう。彼の言いたいことは、頭に響いてくる」

髪は短く切れ長の目、豪華に見える衣装は多分王の正装の姿。

全体の雰囲気が国王様に似ている気がした。

人影はアランをじっと見つめ、暫く何かを呟いた後、再びスゥと滑る様に動き、暗い書棚の傍に戻った。


いつの間にか袖を掴んでいた手を武骨な手がそっと解き、震えている身体をぎゅっと包み込んだ。


「まだ怖いか?」


アランの腕の中はいつも心地よくて、あたたかい。身体の震えも一瞬で止まってしまう。恐怖心がスーッと溶けていく。


アランは身体の震えが止まったのを確認すると、すっと腕を離した。

誘導するように背中に当てられた手が、気のせいか、いつもよりよそよそしく感じる。

児童書の棚まで来ると、背中に当てられていた手も離れてしまった。


―――今日のアラン様は何か冷たく感じる。やっぱり、あんなことをしたから、呆れているんだわ・・・自業自得ね。


「あ、あの棚の・・・あれです」


棚の一番上にある、一番古びている背表紙の本を指差した。


それは、以前パトリックが取ってくれた本。あの神話の本。あれはきっと、あの中にあるはず・・・・。でも、もし無かったら・・・。

不安げに見つめるエミリーの前に本がすーっと降りてきた。


「これか?」


大きな手が神話の本を取り、確認するように身体の前にかざした。

頷くと、差し出していた白い手の中に渡された本。ずっしりとした分厚い本。

祈るような気持ちで表紙を見た後、パラパラとページを捲っていった。


夜も更けた書籍室の中、ページをめくる音だけが辺りに響く。

アランは少し離れたところでその様子をじっと見ていた。


年月の経った古びた紙、少し茶色のページの終わりがけに、それは仄かな灯りにキラッと光った。


ピタッと止まるか細い指。

瞳に映るのは、シャクジの花模様のある薄くて細長い銀細工。


一瞬時が止まったかのよう・・・その後に、何とも言えない嬉しさと安堵感が沸き上がってくる。

それを大切そうに取り、本を丁寧に閉じて、何故か少し離れたところに立っていたアランの手に返した。


「見つかりました。アラン様、ありがとうございます」


―――良かった。見つかって。これはわたしの大切なもの。あの時、アラン様から貰った綺麗な銀のしおり。


嬉しそうにそれを両手で包んで、しみじみと見ているエミリー。


「君は、それを探しに参ったのか。これを・・・?」