シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

“仕方がないな”

何をどう言っても、書籍室に行くと言って聞かないエミリーにこう言って、アランは書籍室まで連れてきていた。エミリーのお願いには氷の王子でも、まるで太刀打ちできない。


「全く・・・。ここは、夜は鍵をかけてある。一人で来ても開けることは出来ぬ。私がいなければ、君はどうするつもりでおった?」


鍵の束の中から一番細いものを選び、鍵穴に差し込むと、カチャッと音を立てる扉。


「夜の書籍室は少々危険だ。良いか、覚悟がいるぞ?」


扉を開けながら、アランは少し悪戯っぽい顔をした。


―――書籍室は、昼間でも少し怖い。掃除をしていても、何か目に見えないものの息遣いを感じることが、たまにあった。もしかして、それのことを言っているのかしら・・・。


キィと音を立てて開かれた扉の中は真っ暗で、昼間とは比べ物にならないくらいの不気味さを醸し出している。


―――どうしよう・・・アラン様があんなことを言うのものだから、怖い・・・。


「暫しここで待っておれ」


怖くて入口で立ち竦んでいると、鍵の束をじゃらじゃらさせながら、スタスタと暗闇の中に消えていった。

向こうで、銀髪が闇のなかで仄かに揺れ動いているのが見える。

カチッと音をたてて灯る壁の燭台。

必要最小限にともされた仄かな光で、書籍の棚が闇の中にいくつか浮かび上がった。


「怖いか?少し脅かしすぎたな。大丈夫だ、私がついておる・・・で、欲しいものとは何だ?」

「児童書のところに、あるんですけど―――あの、アラン様・・・あれは何ですか?」


震える指で、専門書の棚の並ぶ方を指した。暗い書棚の脇でボゥッと光る白い影。

その塊がスゥーと滑るようにこっちに進んでくる。


「・・・・こっちに来るわ」

「大丈夫だ。アレは先祖だ・・・私が来たのが分かったので、近付いてくるのだろう」


モヤモヤとした白いものの塊。

ボゥッと光るその影は、近付くにつれて人の形をなしていく。

だんだんと形どる姿は、顎鬚を生やした年配の男の人の姿になった。

滑るようにスゥとエミリーの傍に来ると、それは丁寧に頭を下げた。

もやもやとした煙のようなものが、影が動くたびに残像のようにふんわりと動く。

そして、唇と思われるものが動き、何かの言葉を呟いた。

怖いけれど目を離すことが出来ず、何を言っているのか、その唇をなんとか読み取ろうとした。

エミリーに向かった唇はふわふわと動き続ける。


「え・・・何?」

「・・・彼は君に、挨拶をしておる。何度か清掃したことについてもお礼を申しておる」