シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

ウォルターの真剣な声。

アランの威厳ある瞳にたじろぐことなく、しっかりと進言する姿。

その心の奥底に潜むものを、アランはしっかりと感じ取っていた。



「だがウォルター。君ならばもう、この者が誰であるかなど、確認せずとも分かっておるであろう。怯えている者に、そのように接してはならぬ」


アランはサッと男の子の傍に歩み寄り、細い腕をそっと掴んで立ち上がらせると、庇うように身体を包み込んだ。

その拍子に大きなコック帽がずれ、ブロンドの髪がふわりと一束零れおちた。


「料理長ご苦労。彼女が世話をかけた。ウォルターも下がって良い。後は私が対処する」


「しかし、アラン様―――」


「下がれと申しておる」


ウォルターはまだ何か言いたげにアランを見ていたが、今まで追いかけていた者が、腕の中で大人しく身を預けている姿を見て、唇を固く結んだ。


緊迫していた雰囲気がフッと緩み、料理長はホッとしたように肩を落とした。

今までの緊張が一気に消え、安心したらどっと疲れが出たようで、足を引きずる様にして塔へ戻っていく。

反対に、ウォルターは足早に塔へ向かっていく。


二人が下がったのを確認すると、アランは包み込んでいた身体をそっと離して、細い肩に手を置いた。



「全く、君は・・・。私の心臓はさほど強くないと申したであろう?」


「ごめんなさい・・・」


「困ったものだな。お陰で私は、今夜君にかかわった皆を罰せねばならぬ」



コック帽に隠れた顔を見つめ、眉を寄せて少し厳しい表情をした。

塔を抜け出す行為を優しく窘める瞳。それには少し哀しげな色も混ざっていた。


「え?罰するって・・あ・・アラン様、あの、料理長さんには、わたしがムリヤリ頼んだんです。だから、叱らないでください。罰するなんて、そんなことしないでください。お願いします。それに、警備兵の方たちもっ・・・」


胸の前で両手を合わせて、一生懸命お願いするエミリー。

アメジストの瞳を潤ませ、眉を寄せて、愛らしく連ねる懇願の言葉。

ずっと聞いていると負けそうになってしまう。

それを止めたのは、唇に当てられたアランの指先。


「ダメだ。塔の規律を守る為だ。これだけは、いくら君の頼みでも聞くわけにはいかぬ」


「罰って、何をするのですか?・・・そんな、わたしのせいで―――お願いします。わたしも罰してください」


懇願するように見つめるアメジストの瞳。それを見下ろすアランの哀しげな瞳。


「それは無理だ。君を罰することはできぬ。これは塔を守るため、君を守るため、私が決めた塔の規律に基づいてのことだ。分かるな?」