シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「料理長、お疲れさん。今日はもう上がりかい?あれ?いつも玄関の方から帰るのに、政務塔に何か用か?」

政務塔に向かう出入り口近くの廊下で、警部兵に急に声をかけられた料理長。

相当驚いたのか、大きな体をビクッと震わせ、警備兵の顔を見て引き攣ったような笑顔を見せた。


「あぁ、ちょっとな・・・」


「そっちの子は新入りか?」


出入り口の管理をしている二人の警備兵は、料理長の隣で隠れるようにしている小柄な人物を訝しげに見た。


小柄なのに、大きなコック服を無理矢理着ているようで、袖を幾重にも折ってたくしあげている。

小さな頭に被った大きなコック帽は、すっぽりと顔までも隠してしまっていて、どんな表情をしているのか覗き込まないと分からない。



「あぁ、違うんだ。この子は・・その、そう・・知り合いの息子なんだ。城勤めをしたいって言うんで、今日一日研修していたんだ。頑張ったご褒美に、今から政務塔を案内しようと思ってな」


「息子・・・?」


警備兵は訝しげに、じろじろと上から下まで男の子の体を眺めた。

男の子はそんな視線を遮る様に、料理長の体の影にサッと隠れてしまった。



「・・・まぁいいだろう。で、今から政務塔に?もう遅いぞ。辞めた方がいい」

一人の警備兵が顔をしかめた。


「まぁ、そう言うな。料理長も忙しいからな・・・。遅いのもしょうがないぞ。お前、城勤め希望か?こんな細っこい腕じゃ駄目だな。もっとたくさん食べて大きくならないと大変だぞ?頑張れよ」


もう一人の警備兵が値踏みするように腕を掴み、小さな顔を覗き込むようにして、にっこりと笑った。


言われた男の子は掴まれた腕をサッと振り払い、顔をそむけて料理長の体にサッと隠れた。



「すまないね。すごく恥ずかしがりやで・・・。ありがとな」



料理長は曖昧な笑顔を浮かべると、男の子の背中を遠慮がちに押して、そそくさと塔の出口を潜った。


政務塔への渡り廊下を歩く二人。

料理長が前を歩き、男の子はその後ろを嬉しそうについていく。


政務塔に入る角を曲がると、向こうから背の高い黒髪の人が歩いてきた。


その人を見て、料理長は思わず顔をしかめた。


――よりによって、こんなときに・・・