シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「開けることはできますか?どうしても入りたいの」

「いいですよ。でも、部屋の中は片付けてありますので、もう何もありません。それでも宜しいですか?」


エミリーが頷くと、警備兵は頭を下げて廊下の端にある警備部屋に向かった。

警備部屋にはこの階の全部の合い鍵が常備されている。

警備兵は壁に掛けられている鍵の束を手に戻ると、木の扉の小さな鍵穴に差した。

カチャッと静かに開けられる扉。


きっちりとカーテンの閉められた部屋の中は、闇に染まり、何も見えない。

暗闇の中、警備兵が探る様に壁を伝って入り込んだ。そして壁の燭台に手を近付けてカチッと音をさせると、火がポッと灯った。



「では、私は持ち場に戻ります。用がすみましたら声をおかけください」

ニコリと微笑んで頭を下げると、警備兵は持ち場へと戻っていった。



部屋の中はしんと静まり返り、ほんの2週間ほど前までここに住んでいたのが嘘のようにひっそりとしていて、どこか冷たく感じた。


一つだけ灯された灯りに浮かぶ調度品。そのどれもがなんだか懐かしく感じる。


薄手のカーテンを少し開けてみると、テラスの丸いテーブルと椅子はそのままあって、柔らかな月明かりに照らされていた。


あの場所で起きた出来事が、昨日のことように思い浮かぶ。

あの頃はまだこの想いに気付いていなかった。


あの頃に戻ることができたら、こんなに苦しい想いをしなくて済むのかしら・・・。


カーテンをそっと元に戻すと、部屋の中を見渡した。

天蓋に掛けられていた布は取り払われて骨組みだけになっていて、二つあったクローゼットは一つだけになっていた。

書棚の中にあった本もすっかりなくなっている。



「ほんとうに、すっかり片付けられているけれど、ここにあるかしら・・・」


エミリーはテーブルの上にカップを置いて、書棚の中を調べ始めた。

ガラス戸を開けて、丁寧に上から探っていく。

白い手が書棚の棚を幾度も彷徨う。

全部の棚を探り終えると、諦めたように手を下ろしてガラス戸をそっと閉めた。

少し考え込んだ後、今度はあらゆる引き出しを開け始めた。

だが、予想通り引き出しの中には何もない。


「掃除してあるもの。やっぱり無いわよね・・・。そうするとやっぱり、あれと一緒にあそこにあるかもしれないわ」


エミリーは少し考え込んだ後、部屋の灯りを消して廊下に出た。



「ありがとうございました。おやすみなさい」

にこにこしている警備兵に鍵と微笑みを返し、階段へ向かった。