シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「仕方ありませんね」

警備兵は柔らかい微笑みを浮かべた。

「ただし、カップを洗いに行くだけですよ?塔からは出ないと、すぐに戻ると約束してください。それからショールではなく、せめて上着か何か羽織って下さい。その姿ではあまりにも―――夜は人が少ないとはいえ、その・・・」


警備兵は口ごもると、慌てて下を向いた。

この日エミリーが着ていたのは、ノースリーブで丈が膝までのもの。柔らかなレースがフリフリと胸元を覆い、ブルーと白の少し透けた布地が何枚か重ねられて作られているものだった。

普通の娘用のものではなく、正室用に用意されたもので、絶妙な作りで透けて見えないとはいえ、しなやかな身体の線が手に取る様に分かってしまう。

若い警備兵にとっては大変な目の毒になっていた。


その様子を不思議に思い、改めて自分の姿を見て、慌ててショールを手繰り寄せるエミリー。

手に持っていたカップを再び落としそうになってしまった。


―――メイったら、寝るだけだと思ってこんなのを・・・。


「ごめんなさい・・・わたし。こんなの着てるとは思ってなくて・・・あの・・着替えてきます」


頬を染めて、あたふたと部屋に飛び込んでいく背中を見て、警備兵はホッとしたように項垂れ、深い溜息をついた。


「全く、困ったお方だ・・・」


数刻後、しっかりとワンピースを着て廊下に出たエミリーは、下の階にある、以前使用していた部屋に向かった。

薄暗い廊下を進み、用心深くドキドキしながら階段を下りていくと、見覚えのある懐かしい廊下が見えてきた。

それを誰にも見付からないことを祈りながら、忍び足で進んでいると、2階の警備兵に見つかってしまった。


「そこに居るのは、エミリー様ではないですか!?」


静まり返っていた廊下に響く大きな声。ビクッと身体が震えるエミリー。ホント心臓に悪い・・・。ドキドキしながら振り返ると、顔なじみの警備兵が後ろから足早に近づいてきた。


「あ、こんばんわ・・・」

「メイに用事ですか?メイなら今出かけています。ナミなら部屋にいますが、どうしますか?」


警備兵は、2階に降りてきたことを咎める風もなくにこにこと笑った。

人懐っこい笑顔にホッとして、緊張していた心が和む。


「こんばんわ。メイに用があって来たんじゃないの。実は、あの・・前に使っていた部屋に用事があるんです」


そう言うと、警備兵は驚いたような声でこう言った。


「あの部屋にですか?でも、鍵がかかっていますよ?」


「えっ・・・?」