シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「エミリーさん、大丈夫ですから、お戻りください。ほら、後ろで・・・あーっと、講師の方かな?・・さっきから困った顔をしていますよ」

講師はフランクの顔を見て、首を縦にぶんぶんと振っていた。

その表情は少し嬉しそうで”よくぞ気付いてくれた”と言っていた。



――今朝のこと。

執務室に突然呼ばれ、何事かと、緊張しながら出向いた講師。


「お呼びにより参上致しました」


机の前で丁寧に頭を下げると、何やら小さな紙を渡された。見ると薄紫の厚い紙にアランのサインが書かれている。


「恐れながら、アラン様。これは、一体何で御座いましょう・・・?」


初めて目にするカード。何の目的で渡されたのか分からず、講師はオズオズと尋ねた。


「これは、入塔許可証だ。入口で警備に見せれば良い」

言いながらアランは机の上にある書類を手に取った。


「何故、これを私に下さるのですか?」

講師は戸惑いながらアランの威厳ある瞳を見た。


塔への許可証など、あのパトリック様だって持っていないのに・・・私が貰うなど・・・。


「エミリーには王家の者としての知識が必要だ。これから毎日講義を行う。これはスケジュールだ。分かっておると思うが――――――」



滅多に入ることを許されないアランの塔。王の塔より規律が厳しい。

しかも3階の正室の部屋に行くように命じられた講師。

講義なら政務塔の部屋で行えば良いのに、何故アランの塔まで行くのか。

目の前にいたアランは相変わらず無表情だったが、よほど塔から出したくないと見えた。

氷の王子の心を奪ったという、噂のエミリー様に会うことが出来るとは・・・後で仲間に自慢してやろう。

緊張しながらも、少し心が躍っていた。



あの時、教科書となる本を持ち、護衛の鋭い視線が向けられる中、部屋の扉を開けた途端、バタバタと駆け寄ってきた兵士。

エミリー様に使用人からの伝言が届けられた。

酷く慌てた様子のエミリー様に促されるまま、護衛に引きずられるようにして、ここについてきてしまった。

そのため、まだ一言も講義をしていない。この方は見かけに寄らず、結構強い。

アラン様に申しつけられているのに、これでは何もできないまま時間が過ぎてしまう。

どう報告したものか・・・。講師は焦りながらエミリーを見ていた。


「ごめんなさい・・・わたし・・・予定は何時までですか?」

講師は治療室の時計を見上げ、諦めたようにため息を吐いた。


「もうすぐ終了の時間です」


その時、少しホッとしたようなアランの声が治療室に響いた。

「全く、君は・・・何故、ここにおる?」