シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

しんと静まり返った執務室の中、机の上にはインクで汚れた書きかけの書状。

羽ペンは置いたままの形で転がっている。

さっきまで座っていた椅子は、丁寧に机の中に仕舞われていた。

今までこれらを使用していた体はといえば、廊下をスタスタと歩いていた。

くねくねと曲がる迷路のような廊下を通り抜け、3階への階段を上って行く。



白い扉の前に来ると、アランは眉を寄せて訝しげな顔をした。

部屋の前には警備兵が二人並んで立っている。

開けておくはずの扉も閉まったままだ。

それに、扉の傍にある警備だまりに居るはずの護衛の姿がない。


「いつもの護衛はどうした?」


「アラン様、護衛はエミリー様と一緒に出かけまして、今はおりません」

警備兵たちは予定外に現れたアランにびっくりしている様子で、少し戸惑いの表情を見せている。


「彼女は出かけたのか?何処に行くと申しておった?」


「政務塔に行かれてるはずですが、お会いになりませんでしたか?」


――全く、何処に行ったと言うのか。

私のところには来ておらぬ・・・ということは、外に出たわけではないな。


「今の時間は講師がおったはずだが、どうしておる?」

「講師も一緒に出られました」

「・・・分かった。ご苦労」


アランは思案気に口元に手を当てて政務塔へ戻った。

「全く・・・困ったものだ・・・」





「モルトさん・・・あの、フランクさん、具合はどうなんですか?」

治療室のベッドの上で苦しげに呼吸をするモルト。

力なく投げ出された腕には点滴のチューブが伸びている。

そのまくら元にフランクとエミリーと使用人が並んで立ち、少し離れた後ろに、護衛と講師が立っていた。

講師は所在なさげにきょろきょろと辺りを見回している。


「風邪をひいているようです。点滴を打っているので、時期に良くなりますよ。昨日医務室に訪れていたようなんですが、生憎私がいなかったものですから・・・。医官が二人とも演習場に出向いていてはいけませんね。反省しております・・・モルトは大丈夫ですよ」

フランクは心配そうに見つめるエミリーを、安心させるように柔らかく微笑んだ。

2日間演習場に居たせいか、フランクの肌は少し日焼けしていた。

この時期、医務室に訪れる者は滅多にいないが、演習場の試験の時は毎年怪我人が多数でる。

剣傷や打撲など、一人ではとても対応しきれないため、医務室をリードに任せて、二人で演習場に出向いていた。