シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

綺麗な薄緑の便せんが丁寧な文字で埋められていく。

シンディは悔しげに口を歪めた。なんとかしてこっちを向いてほしい。せっかくお洒落したのに、ただの一度もこっちを見てもらってない。


「ね、アラン様。今日ね、エミリーさんとのランチのときに、お兄様のことをいろいろ聞かれたわ。何が好きなの?とか、休日は何をしてるの?とか。エミリーさんったら本当に、お兄様のことが好きなのね。私、ランチの時間いっぱい使ってお兄様のことを話してあげたわ」


すると、ずっと休みなく動いていた右腕がピタッと止まった。

羽ペンが文字の途中で止まり、インクがジワッと滲み出て、せっかく書いた書状を一枚汚してしまっている。


「でね、今度一緒にお食事したいけど、いつも忙しそうだし、暇な時間は無いわよね?って聞かれたの」


今まで暇そうだった左腕が動き始め、机の上に置かれていた手が上下に動いてトントンと音をたてた。

その左手を不思議そうに見ながら、シンディは続けた。


「だからね、私言ってあげたの。今度の週末なら空いてるだろうから誘ってみたらどう?って。私が取り持ちしてもいいわよとも言ったの。そうしたらね、嬉しそうに頬を染めていたわ。だから近いうちに、お兄様と出かけたいって、お話があるかもね?」


アランは羽ペンを机に置くと、腕に纏わりつく身体をグイッと引き剥がして、シンディの方に向き直った。


今日初めて目を合わせて話しをする。


「シンディ、まことに彼女がそう申しておったのか?パトリックと出かけたいと?」


怖いくらいに真剣な表情でシンディを見るアラン。

ブルーの瞳には鋭い光が宿っていた。

うそをついていると分かれば、出入り禁止になりそうな、そんな雰囲気を醸し出している。


「えぇ・・・そうよ?・・言っていたわ・・」


あまりに真剣な表情に息を飲み、びっくりして目を見開きながらも、頑張って平気なふりをするシンディ。


心臓がドキドキと脈打って煩い。

ドキドキついでに前からずっと聞きたかったことを、勇気を出して聞いてみた。




「ね、アラン様は、どうしてエミリーさんを塔に住まわせているの?」



「―――シンディが知る必要はない・・・もう稽古に戻るが良い。神官に叱られるぞ」


「うそ!いっけない。もうこんな時間!アラン様、また明日ね!」


頬に唇を寄せて、銀の髪をサラッと揺らして執務室から出て行った。



その後ろ姿を見送り、アランは思案気にブルーの瞳を伏せた。