シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

医務室から使用人とリードが飛び出してきた。

使用人がリードの腕を掴んで無理やり引っ張って行く。


「だから、何度も言ってるじゃないですか!私は助手ですから、患者は診られませんって!フランクさんなら演習場ですから!」


リードの困惑気な声が廊下に響く。


「演習場は遠いんです!すぐに診られるのは、あなたしかいないじゃないですか!とにかく来てください!モルトさんが大変なんですから!!」


使用人は嫌がるリードの体を引きずる様にぐいぐいと引っ張り、玄関に向かっていった。


「ですから私は―――」


リードの声が角の向こうに消えていく。



「あの、少しだけなら外に出てもいいわよね?モルトさんの様子を見たいの」


「ダメです。このまま塔のお部屋に戻っていただきます。モルトの様子ならば、後程使用人に見に行かせます。必要に応じて見舞えば良いでしょう」


言葉と声は柔らかいが、表情には有無を言わせぬ迫力があった。

この雰囲気は、ウォルターによく似ている。


やっぱり昨日の護衛と違って、この人は厳しい。


「分かりました。このまま部屋に戻ります。でも、絶対に教えてくださいね?酷い状態だったらすぐにでも。講義の間でも構いません。すぐに教えてください。いいですか?」


「はい。エミリー様。そのように致します」




馬車止まりを通り抜け、使用人にぐいぐいと引っ張られていくリード。

「ちょっと待ってください!そのモルトさんは、どんな状況なんですか!?」

リードは焦っていた。

確かに学校に通ってはいたが、専攻が違っていて看護師程度の知識しか持ってない。人を診たことは一度もないし、ましてや医官の資格もない。

パトリックやレスターのように医学を学んでいれば話は別だが・・・。


使用人に手を引かれながら、モルトが血を流して倒れている姿を想像し、もしそんなのだったらどうしようかと、頭の中で思考が渦を巻いていた。


「作業をしていたら、何か急に倒れてしまって。もうすぐですから、実際に診て下さい!」


「だから、私は―――っ!?」


リードは思わず息を飲んだ。

使用人が息を弾ませて、ピタッと止まったその場所に、モルトが苦しげに顔を歪めて倒れていた。


その傍らに二人の使用人が心配そうな表情で座っている。一人がリードの顔を見て、ホッとしたように肩を落とした。


「全く・・・」


リードは漸く離して貰えた腕を忌々しげに撫でた。


「あ!お願いします。急に倒れたんです。どうしたらいいのか、分からなくて・・・」

一人の使用人がすがる様な瞳でリードを見つめた。


「言っておきますが、私は医官ではありませんので、診れませんから」