シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

その後もシンディはパトリックのことをエミリーに話して聞かせた。

休日は何をしてるかとか、何が好きで何が嫌いかとか、それはもう詳しく。

ランチの時間が終わるまでそれは続き、おかげですっかりパトリックのことに詳しくなってしまった。

もし”パトリッククイズ”なんてのがあったら、全問正解しそうな勢いだ。



「じゃエミリーさん、今日は楽しかったわ。また一緒にランチしてくださいね」


「ありがとうシンディさん。とても楽しかったわ。わたし、ランチとディナーはいつも一人なの。よかったら、また誘ってくださいね」


エミリーは嬉しそうに微笑み、ニッコリ微笑んで手を振るシンディを残し、部屋を後にした。



「シンディさんって明るくていい子ね?」


廊下で待っていた護衛ににこやかに微笑むと、護衛は部屋の扉を一瞥し、少し首を捻った。


「エミリー様、お部屋にお戻りください。今日はこのあと“王家のしきたり”について学んでいただくようにと、アラン様より申しつけられております。1時間後には講師が参りますので、そのおつもりで居て下さい」




―――”王家のしきたり”どうしてそんなことを学ぶの?

やっぱり・・・そうなのかしら。


アラン様はわたしに王家としての身分を―――?


そうね・・・そうしておけば、わたしの嫁ぎ先も決まり易いもの。

この国で嫁ぐなら、身分がしっかりあった方がいい。


身寄りのない娘なんて、誰も貰いたがらないもの。

しかも、得体の知れない異国の出身で・・・反対する人だっているだろうし。


シンディさんが言っていたことも、あの会食で交わされていた会話も、これならぴったり符合する。


”娘に――”・・・わたしは早く塔を出た方がいいみたい・・・。


このままでは、アラン様の邪魔になってしまう。




”この国で生活できるようになるまでの間”


最初に言われたことが思い出される。




いつかはこうなるって分かってはいたけれど


やっぱり、辛い・・・






政務塔の廊下を塔に向かって歩いていると、角の向こうから使用人が一人飛び込んで来た。


すぐさま護衛が進み出て、サッと前に立ちはだかった。


使用人はとても焦った顔をして、その脇をあっという間に走りすぎ、背後の医務室へ駈け込んでいった。


「すいません!フランクさん居ますか!?」


使用人の服装は、今さっきまで庭仕事をしていたように砂埃が沢山付いていた。

その尋常じゃない焦り方に、先日見たモルトの様子が思い浮かんだ。

あのとき腰を痛そうにしていたし、凄く疲れているように見えた。


――まさか、モルトさんが・・・?