シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

政務塔の長い廊下を銀の長い髪がさらさらと揺れる。

短めのスカートから綺麗な長い脚がすらりと覗く。

普段よりも少しお洒落をした後ろ姿は、弾むような足取りでまっすぐに執務室に向かっていた。

薔薇色に染まった頬、ブルーの瞳がキラキラと潤んで輝く。


シンディは少し緊張していた。

今日は大人の自分をアピールしようと思っているからだ。

アランは憧れの存在。子供のころから大好きで、いつも大きな背中を追いかけてきた。



今までは子供だから相手にしてくれなかったけど、私だってもう17歳。

もうあと少しで学校も卒業するわ。

この通り、身体だって女らしくなってきたし――――


シンディは立ち止まって自分の身体を眺めた。

スッと伸びた長い手足。

豊満とは言えないけれど、ふっくらとした丸い胸とお尻。

ウェストはキュッとしまって細く、まるでモデルのようなこのスタイルは、同年の女の子と比べても、誰にも負けない自信があった。


お兄様がお付き合いしていた人達には遠く及ばないけど、少なくともスタイルではエミリーさんに勝ってるわ。

これでも私、学校では人気あるんだから。

大人なところを見せれば、アラン様だってきっと私の魅力に気づくはず。

噂ではエミリーさんのことを想ってるって言ってるけど、異国の人が珍しくて少し気に掛けてるだけだもの。

きっとすぐに飽きるだろうし、何よりも、どう考えても、あの氷の王子様が普通の女の人に心を奪われるわけがないわ。

身分だって違うんだし。

けれど私は違う。身分だって申し分ないし、王家の女性としての教養もあるし、このとおり美貌だってある。

何より銀髪だもの。私こそアラン様のお嫁さんに相応しい。

だから、私は気付かせてあげるの。

やっぱりシンディが一番だって。

シンディは執務室の前で軽い深呼吸をした。



「アラン様、シンディです。入ってもいいですか?」



扉の中はシーンと静まっていて、何も返事が聞こえない。


「アラン様、いないの?」

首を傾げながら、扉をそっと開けて覗き込むと、奥の机に居るべき姿がない。


「うそ・・・アラン様、何処に行ったの?」


奥まで入って机の上を見ると、羽ペンが無造作に転がっている。

何か書類を書いていた途中のようで、書きかけの紙が机の上に置きっぱなしになっていた。相当急いで部屋を出たのか、椅子も机の中に仕舞われていない。


「もう!せっかく来たのに。何でいないの?休憩時間が終わっちゃうわ」

シンディは口を尖らせてムスッと膨れた。