シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「早く治るといいわね」

独り言を呟きながら小鳥の頭をそっと撫でているエミリー。

その後ろ姿をぼーっと見つめている助手。

その背後で、護衛の目がギラリと鋭く光る。鍛えられた腕は、助手が少しでも妙な動きをしたら、いつでも体を組み伏せられるように準備をしていた。

その気配に気付き、振り返ってギョッとして後退る助手。

「なっ・・何ですかっ、あなたはっ」


「助手さん、餌はありますか?このコまだ何も食べていないでしょう?わたし、餌をあげてみたいわ」


助手は青ざめながらも護衛をジロッと睨み、棚にある小さな箱に手を伸ばした。


「リードです」

「え・・・?」

「私の名前です。リード」


棚から箱を取り出しながら、リードはもごもごと口を動かした。


「確かに助手ですが、私にも名前がありますので・・・これが餌ですが・・・あなたのような方には、無理だと思いますがね」

リードは、箱とエミリーを交互に見てぶっきらぼうに言った。


「どうして?大丈夫よ。わたしにだって、それくらい出来るわ」


「しかし・・・あなた、大丈夫ですか?この餌・・・」


少し迷った後、餌の箱を開けてエミリーの前に差し出した。



「っ・・・!」

声にならない息が漏れ、頬がサーっと青ざめていく。


「そ・・・それは・・・」

息を飲み、堪らず箱から目を反らすエミリー。

だけど、今更出来ないとは言えない。少しフラッと後退るも、なんとか踏ん張った。


「ん・・えっと・・・大丈夫です・・・でも・・・リードさん。昨日あなたがあげているのを見た時は、こんなに長くなかったわ」

アメジストの瞳がじんわりと潤んでいく。実はこういう長い生き物が大の苦手。子供の頃ひどい目にあって以来トラウマになっていた。


「えぇ、ですから。この状態ですと長いので、こうして切るんです」

リードはよく見えるようにと、掌の上にそれを乗せた。

少し器用なピンセットが鋭く動く。その光景に息を飲むエミリー。


「それでこうして・・こうです」

餌になったそれを美味しそうについばむ小鳥。


「やってみますか?」

無愛想に差し出されるピンセット。箱の中にはうにうにと踊る様に動く長い生物。

リードが促すように、ピンセットにそれを挟んで目の前に差し出した。


「ぃ・・っ・・」


視界がくらっと揺いだと思ったら、景色が横になっていった。

気丈に保っていた意識がふっつりと切れる。


ふんわりと倒れていく身体。


素早く動いた護衛の腕がそれをしっかりと抱き止めた。