シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

食堂を後にしたアランはそのまま執務室に向かった。

今日も処理しなければならない案件が山のようにある。

昨日持ち込まれた報告書にも目を通さねばならない。

机に座り、昨夜ウォルターが持ち込んだ報告書から処理し始めた。


コンコン・・・

「アラン、少しいいか?」

パトリックが開けた扉にノックして入口に立っていた。


「パトリック、こんなに朝早くから珍しいな?」

扉を閉め、スタスタと歩み寄ると、机の脇にある椅子に腰かけた。


「今日も試験があるからな。早く来なければ間に合わん」

「―――で?朝一で訪れたのがこことは―――何の用だ?」


「分かっているだろう?昨日のことさ」


パトリックの瞳がアランの様子を窺うように見つめた。

その表情は不敵な微笑みを作っており、アランがどんな反応をするのか、楽しんでいるようにも見える。


「あぁ、昨日は彼女が世話になった。パトリック、君には礼を申さなければならぬな」

目を通していた書類を机の上に置いて、パトリックの不敵に放っている笑みに対抗するように、ブルーの瞳を鋭く光らせ無表情に見据えた。


「昨夜、シンディには厳しく言っておいた。もう二度と彼女に対して、あのようなことはしないだろう」

「兄想いの妹を持って、幸せだな?」

「いや、どうもそれだけでは無いようなんだが―――――まぁ、君には関係ないことだな・・・」


パトリックは立ち上がると、机の上に書類を置いてアランに詰め寄った。


「今回、私の妹が起こした出来事については、この報告書に記した通りだ。だが、私は彼女には謝罪しても、決して君には謝罪しない」

「分かっておる。だが、私は礼を申す。彼女を部屋に守り届けたこと、まことに感謝致す」


ブルーの瞳が火花を散らすように見つめ合う。

やがてパトリックがフッと一息つくと、机の上から手を離した。


「今日もシンディが執務室にお邪魔するらしいが、月祭りまでの間だ。適当に相手してやってくれ」

パトリックはいつもの柔らかな微笑みを作ると、窓の外を見やった。

「あれでも、私の可愛い妹だ・・・」

遠くを見るようなパトリックの瞳が窓に映り込んだ。


「では、私は演習場に行ってくるよ。兵士たちの演武の試験も今日で終わりだ」

「どうだ?今年は力のある者は出そうか?」

「あぁ、まだ分からんが、レスターとジェフのところで何人か逸材がいるらしい。今日出てくるから楽しみにしている」

パトリックは軽く頭を下げて退室していった。


今日も、それぞれの一日が始まる・・・