シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

何か言い淀むように再び押し黙ってしまったアラン。

食事をする手を止めて、思案気にブルーの瞳を伏せていた。


「昨日―――ですか?」

エミリーはその先を促すように、食事の手を止めてアランを見つめた。


「―――昨日、君が演習場に参ったことを、ウォルターがかなり心配しておった。昨夜、報告書を抱えて訴えに参った」


迷うようにしていたアランの表情が、すーっと真剣なものに変わり、エミリーをじっと見つめている。


「君は、自分が思っておるよりもずっと、人目に立つ。昨日はウォルターがいち早く気付いたから良かったものの・・・。そうでなければ、あの数に護衛一人では守りきれずに、怪我をしておったかもしれぬ。あそこに何者かが潜んでおり、再びその身を連れ去ろうとしていたかもしれぬ」


「ごめんなさい。昨日はあんなことになるなんて、思ってなくて―――」


まさか、あんな風に兵士たちに囲まれるとは思っていなかった。

確かに、一歩間違えれば怪我をしていたかもしれない。

また誰かに攫われてしまったかもしれない。

ジリジリと近付いてきていた兵士たち。

腕を掴んで離さなかったあの男のことを思い出し、今さらながらに怖くなった。



「良い。君が悪いわけではない。だが、これから先、君の行動範囲がもっと広がってゆくだろう。どこかに出かける時は、行く前に必ず、私かウォルターに申して欲しい。知っておれば対処が出来る故・・・君は、自分が思っておる以上に、周りの者に影響を与えておる」



”君は自覚した方がいいな”


あの時の、パトリックの言葉が思い返される。


あれはこのことを言っていたのかしら・・・。



「このように・・・君の嫌な記憶を呼び醒ましてしまうのではないかと、言い淀んでおった・・・」

いつの間に傍に来ていたのか、大きな掌が膝の上でギュッと握られている指をスッと解いた。


「全く、君は・・・。いつも私を驚かせる。私の心臓はさほど丈夫ではない。このままでは何時か壊れるかもしれぬ」

手を握りながらアメジストの瞳を覗き込むアラン。


「え・・・?あの・・・そんな。ごめんなさい」

慌てて顔を上げてあたふたと瞳を彷徨わせるエミリー。

その様子に、ブルーの瞳は少し悪戯っこい光を宿して微笑んだ。



「今シンディが巫女の稽古で城に来ておる。君と昼食を一緒にと希望しておる。年も近いから話しも合うだろう。今日の昼は政務塔で取る様に手配しておく故、そのつもりでいるように」


そう言うとアランは指に口づけを残し、食堂を出て行った。