シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

朝の食堂。いつものようにテーブルを囲むアランとエミリー。

昨日あったことを楽しげに話すエミリー。それを時々相槌をうちながら聞いているアラン。いつもの朝の微笑ましい光景。

でも今朝は、なんだか少し様子が違っていた―――


「それで、助手さんがピンセットで餌を取り出して、小鳥の前に差し出したんです。そうしたら、とても美味しそうに啄んでいたわ。その様子がとても可愛いの。ずっと見ていても飽きないくらいに。アラン様、今日も医務室に様子を見に行ってもいいですか?」

サラダのプチトマトをフォークで差して口に運び、テーブルの向こうを見つめた。

「失礼致します。焼きたてのパンをお持ちいたしました」

給仕がワゴンにほんわりと湯気を出しているパンを載せて、テーブルに運んできた。

焼きたての香ばしい香りが食欲をくすぐる。

早速パンにイチゴジャムを塗りながら、テーブルの向こうのアランをそっと見上げた。


―――なんだか今日はアラン様の様子が変だわ。どうしたのかしら・・・。

いつもは、こうしてお話をすると微笑みながら聞いてくれるのに。

今日はずっと何かを考え込んでいるのか、問いかけてもあまり反応がないし、無表情だわ。

朝迎えに来てくれた時から、ずっと押し黙ったまま。

何か心配ごとでもあるのかしら・・・。



「アラン様?どこか具合でも悪いのですか?」

食事の手も進んでいない様子のアランに、エミリーは心配になって声をかけた。少し、顔色も悪いように見える。


「いや、そんなことはない・・・」

テーブルの向こうで顔を上げたアランは、少し驚いたような表情を見せた。


「でも、さっきからお食事も進んでいませんし、顔色も悪いです。フランクさんに診てもらった方がいいのではないですか?」


「すまない。心配をかけたな。今抱えている案件のことをずっと考えておった。君の話はきちんと耳に入っておる・・・君の声はどんなに小さくとも、他のことに気を奪われておっても、私の耳にしっかり届く。答えずにおってすまなかった。医務室には、今日も行っても良い」


いつものように優しい微笑みを浮かべるアラン。食事の手もやっと進み始めた。


「それなら良いですけど・・・」

エミリーは頬を染めて俯いた。心臓がドキドキしている。


”君の声はどんなに小さくとも私の耳にしっかり届く”

アラン様はひどい・・・これでは、わたしだけが特別って言っているように聞こえてしまう。

アラン様にそんなつもりはないのだろうけど、これでは変に期待してしまう。

諦めなければいけないのに・・・心が、苦しい・・・。


「エミリー、昨日のことだが―――」