シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

ブルーの瞳が周りをぐるっと一瞥していく。


「え・・・自覚・・・?」

「―――いや、せっかく来たんだ。暫く見学していくかい?」

「はい。あ、でもいいんですか?」

目の前でウォルターが凄い形相でパトリックを睨んでいる。


「ウォルター、いいだろう?私がこうして傍にいるのだから、もう誰も近付きはしない」

「パトリック様、今は我々がいますので皆近付きませんが、離れれば隙を見て近付く者もおりましょう。油断できません」


ウォルターの瞳には、目の前で攫われていったエミリーの姿が浮かんでいた。

もう二度とあんな目には合わせられない。

もう二度と、あんな思いはしたくない―――


「ウォルター・・・。君は、まさか――」

「エミリー様の身の安全のため、今すぐ塔の部屋にお戻りいただいた方が宜しいかと思います」

真剣な瞳でパトリックを見据えるウォルター。

想いを推し量る様に見つめるパトリック。


「・・・分かったよ。ウォルター、君の言う通りにしよう。そういうことだ。エミリー、すまないが、塔まで送って行くよ」

演習場の出口まで、エミリーを囲む輪はそのままに、ゆっくりと移動していった。



コンコン・・・

「アラン様・・・入ってもいいですか?」

執務室の入口で、シンディは中をそっと覗き込んだ。

窓際の机で何かの書類を読んでいるアラン。

真剣なブルーの瞳。少し寄せられている眉。少し長めの銀の髪が、窓から差し込む光に透けて艶めいている。やっぱり素敵―――


「シンディか・・・舞いの稽古はどうした。何か用か?」

アランは読んでいた書類から目を離し、机の上に置いた。


「今、休憩中なの」

シンディは弾むような足取りで部屋に入ると、キョロキョロと見廻した。


「アラン様、私、学校の先生に言われたんです。月祭りの稽古のために城に行くのなら、いい機会だから、城のお仕事の様子をレポートしなさいって。私、アラン様の仕事の様子をレポートにしてもいいですか?」


「私の仕事を―――?私よりも、他の者の方が動きがあってレポートにし易い。私はここからほとんど動かぬ」


「だから、いいの。休憩時間にここに来て、仕事の様子が見られるもの。ね!アラン様いいでしょう?」

アランの手を両手で握り、甘えるようにフリフリと揺らすシンディ。


「仕方ないな。だが、ここにはウォルターやパトリックがたまに来る。彼らの仕事の邪魔をするでない。良いな?」


「ありがとうございます!アラン様!」

シンディはアランの首に抱きつき、頬に唇を寄せた。