シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

エミリーは演習場へと歩いていた。

こうして未知の場所に行くのはどこか楽しい。

いつもは後ろにいる護衛が、今は案内するように前を歩いている。

城の中は広くて、まだまだ知らない場所がたくさんありそう。

時々振り返りながら、エミリーの歩く速度に合わせてゆっくりと歩く護衛。

高い塀が続く場所まで来ると後ろにサッと下がった。


「エミリー様、演習場に着きました」


演習場に入ると、数百人の兵士たちが順番にそれぞれの会場で演武を行っていた。

真剣な兵士たちの掛け声や気合いが聞こえてくる。

広い演習場の中、弓矢と体術と剣の会場が何個も作ってあって、上官たちが下級兵士の点数をつけていた。


―――パトリックさんはどこかしら?こんなに人がいると、わからないわ・・・・。黒髪の中、長身の銀の髪は目立つはずだけど・・・。

入口から探してみるものの、何処にいるのか、見当たらない。聞こうにも、知っている兵士が一人もいない。


「仕方ないわ。中に入って探すしかないわね」


キョロキョロしながら歩いていると、後ろでは護衛が一人でピリピリとし始めていた。

兵士たちがエミリーに気付き、色めき立っているからだ。

張り詰めた空気の中を、ほんわりとしたオーラの清楚な身体が歩き回る。

下級兵士たちの羨望の瞳が清楚な身体を追いかける。

すーっと伸ばされる何本もの腕や指。コソコソと交わされる会話。

護衛は焦っていた。こんなに目立つとは思っていなかった。やはり、きちんとアラン様の許可を取れば良かった・・・。

エミリーが動くたびに下級兵士たちが一緒に動き、ざわざわとざわめく。

試験の終わった数人の兵士たちが話しかけてきた。


「エミリー様ですよね?」「どうしてこちらに来られたんですか?」

「何かお探しですか?」「私がご案内致します」

「いや、私がご案内致しますから」


護衛の制する手を掻い潜り、あっという間に何人もの兵士たちが集まってきた。

手を差し出しながらニッコリ笑っている者。何とか近付いて姿を見ようと人波を掻き分けて来る者。少しでも声を聞こうと近付く者。

その様子は、さながらアイドルを取り囲むファンの様相を呈していた。

護衛が身体を庇うように立ちはだかっているが、多勢に無勢でどうにも守りきれそうもない。


「あの、一人で大丈夫ですから、どうぞお構いなく―――」

―――どうしよう・・・。どうしてこんなに人が集まってしまったのかしら・・・怖い。それに困ったわ。これじゃパトリックさんにペンを渡せないかもしれない。

「皆さん。どうぞ、試験に戻ってください」

何とか皆に離れて貰おうとしていると、左側の人波の一部分がザワザワとざわめき始めた。



「お前たち離れろ!!この方に近付くんじゃない!」


人垣の一部分が崩れて、焦ったような声が響き渡った。