シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「エミリー様、そろそろお戻り下さい」

護衛が時計を見ながら後ろから静かに声をかけてきた。

「はい・・・。助手さん、このコのことお願いしますね。また来ます」

助手は顔を赤く染めたまま、焦ったような表情をして背中を見送った。

「・・また、来るのか・・・」


医務室から出ると、向こうに髪が長くてスラッと手足の長い少女の姿が見えた。

封筒のようなものを抱えて階段を上って行こうとしている。


「シンディさん!」


呼びとめると、パッと振り向いて髪を靡かせながら駆け寄ってきてニッコリ笑った。銀の髪がサラッと揺れる。


「エミリーさん、おはようございます。ここで、何をしてるんですか?」

「医務室に用事があったものだから・・・。シンディさんは?」

「私は月祭りの巫女だから、その練習に・・・そうだわ!エミリーさん、今お時間ありますか?」


シンディは何か思いついたようにブルーの瞳を輝かせた。


「えぇ、時間ならありますけど・・・」


エミリーは護衛の顔をチラッと見た。今日はいつもの人は試験があってそっちの方に行ってる。

いつもの人は厳しくて、予定外のことはしちゃダメって言うけど・・・この人は平気かしら?


「良かったー。頼みたいことがあるんです。これを、お兄様に届けて欲しいんです」

シンディは鞄からペンを取り出してエミリーに渡した。


「お兄様・・・?」

「あ、私パトリック・ラムスターの妹なんです。シンディ・ラムスター」

「パトリックさんの?」


そういえば、目元が少し似てるかしら・・・?


「これ、昨日お兄様から借りたんですけど、返すのを忘れちゃって・・・。私が返しに行ければ良いんですけど、ほら、巫女の練習があるでしょう?それにこれがないと―――あの・・・お兄様が困るんです。調子が出ないというか・・・」

渡されたペンを見つめて考え込むエミリー。


―――これがないと困るの?何の変哲もないただのペンのようだけれど・・・。


「わたし、アラン様に――」

「あの!これ、特別製なんです。お兄様のためだけに作られた特別なもので、ラッキーアイテムと言うか・・お守りなんです。とにかく、届けてください!お願いします!アラン様には私からお伝えしますから!」

ぎゅっと目を瞑って下を向くシンディ。


「分かったわ。届けに行ってきます。えっと、今の時間はどこに?」

「今なら、お兄様は演習場にいるはずです。私から頼んだって、アラン様に伝えておきますね!じゃ、エミリーさんお願いします!」

ぱぁっと花が咲いたような笑顔を向け、頭を下げると、シンディはパタパタと走って行った。


「すみません、演習場に連れて行ってもらえますか?」